1周目の2コーナーから3コーナーの間、キミ・ライコネンとフェルナンド・アロンソの事故はオーストリアGPで最も衝撃的であると同時に、その後のレースの展開を左右する出来事でもあった。
何よりも大切なのは、ふたりのドライバーが大きな怪我を負わなかったこと。F1マシンの安全がどんなに向上しても、2台が想定外の位置関係で重なった際のドライバーは無防備だ。大きな事故のあと、アロンソが慌てるでも怒るでもなく、まずライコネンの無事を確認した様子に事態の深刻さが表れた。ふたりに取り乱した様子がなかったのは、ドライバーとして互いを信頼し、ふたりとも何がいちばん大切なのかを熟知しているからだ。ライコネンが挙動を乱した原因は、フェラーリの分析も必要であるが「キミは5速でコントロールを失ったはず」というアロンソの証言は貴重だ。「それぐらいグリップがなかったというのは……僕らが週末を通して経験してきたことだ」──10年以上前のA1リンクではミシュランとブリヂストンのタイヤ戦争が繰り広げられていたが、当時のレンジはソフト〜ミディアム。路面温度が低くても、誰も、これほどタイヤを作動させるのに苦労することはなかった。
事故によって6周終了時点までセーフティカーが隊列を率いた結果、どのチームにとっても2ストップという選択肢はなくなった。作戦の幅が狭くなれば、コース上の勝負ではパワー不足のハンデが大きい。そんな状況でメルセデス・パワーユニット勢+フェラーリ(セバスチャン・ベッテル)の上位7台に続いたマックス・フェルスタッペンは大健闘。ウエット想定のセットアップで予選7位を得たあと、ドライでは苦戦が予想されたが「セクター2と3で頑張る」という言葉どおり、レース序盤はバルテリ・ボッタスを抑え、第2スティントではマシンに傷を負っていたダニール・クビアト、ソフトタイヤでロングスティントを走っていたダニエル・リカルドをかわし、終盤にはスーパーソフトのパストール・マルドナドと大接戦。「タイヤが完全に駄目になった!」と抜かれたあともロータスを追いかけて、DRSでパワー不足を補うという、全力の戦いぶりだった。
3位マッサ/5位ボッタスとウイリアムズも得意のコースで大健闘。忘れてはならないのはフォース・インディアのふたり──アップデートもさることながら、レース現場では「タイヤをうまく使うこと」が結果への最短の道であると熟知したチームは、ふたりの作戦を分け、ニコ・ヒュルケンベルグ6位、セルジオ・ペレス9位というシーズンベストの成績につなげた。モナコGPからの挽回は、ソフト/スーパーソフトというタイヤのアロケーションにもよる(ミディアム/ハードは、どんなに努力しても作動しないのだ)。そして、自然児ヒュルケンベルグは路面が湿ったダンプコンディションや、コーナーのなかで路面の傾斜が変化する野性のコースで本当に巧みだ。今回も、その腕と技を見事に証明した。
(今宮雅子)
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