タイヤに優しいドライビングとはいえ、ベッテル/ロズベルグ/ハミルトンが次々にピットインし、フレッシュタイヤで好タイムを記録するなか、17周までステイアウトするには、かなりの度量が必要だ。さらに、第2スティントでは他とは違うミディアムを選択──この時点で最終スティントをソフト/ショートスティントで戦おうというフェラーリの戦略は明らかに見えたが、そうではなかった。ライコネンとしては、あくまでミディアムのフィーリングが合っているから「どうしてソフトを履く必要がある?」とエンジニアに問う。エンジニアは「総体的には同じでも、序盤のラップはソフトのほうが速いから」と答える。注目すべきは、こうした会話のあとライコネンが8周もミディアムの第2スティントを走り続けた点だ。ピットとの対話は、綿密に続いていたに違いない。フェラーリは、ミディアムの最終スティントに入ったメルセデスのペースを監視していたに違いない。そしてキミはその間、1分39秒5前後の正確なラップタイムで走り続けた。最終スティントをソフトで攻め切れる周回数にするために。
レース中に路面温度が下降するバーレーンでは、レースの後半に作動温度領域の低いミディアムタイヤを選びたい。ライコネンが素晴らしかったのは、ソフトという選択に合意したうえで、ソフトを作動させる速さ──タイヤへの入力──と、その速さで走行した場合の耐久性を第2スティントの間に正確に計算していたこと。40周目に2ストッパー勢最後のタイヤ交換を済ませたあとは、メルセデスより2秒近く速いタイムで攻め続けた。
みんながライコネンに憧れるのは、こうしたすべてがエンジニアの計算に基づいたドライビングによって実現しているのではなく、ドライバーの繊細なフィーリングに基づいた、コンピュータでも割り出せない計算式で成立しているからだ。
ライコネンの“ネコ科の足”を忠実に体現する性能を備えた今年のフェラーリ。「2位でハッピーなわけがないさ……」というキミに、みんなが頷く。次は本物のシャンパンで──シーズンが熱くなればフェラーリ/ライコネンはもっとクールになる。ヨーロッパラウンドが、さらに楽しみになってきた。
(今宮雅子)