メルセデスの2台が別世界を行くレースではあったけれど、そこに新鮮さを加えたのは赤いベッテル──予選はQ3最後にミスをして4位発進になったものの、レースでは見事なタイヤ管理+作戦でフェリペ・マッサから3位を奪い取った。テストから好調なフェラーリ、今年は1アタックだけでなくロングランでも速い。車体性能を犠牲にすることなくパワーユニット自体の効率を大幅に向上し、燃費に厳しいアルバートパークでも最後までペースを落とすことはなかった。ベッテルにとっては、トラブルフリーの週末が何より嬉しい。フェラーリでの最初のレースで表彰台に立つと、久しぶりに子供のような笑顔になった。
そんなベッテルに負けないくらい、爽やかな風を運んできたのはフェリペ・ナスル、カルロス・サインツJr.、マックス・フェルスタッペンの若手たち。彼らと並ぶとベッテルですら年齢を感じさせるほど3人とも表情はあどけないが、いったんマシンに乗ると3人そろって驚くほど落ち着いている。
GP2時代から独特の存在感を備えていたナスルは、リカルドとの攻防を堂々と制することによって存在感の理由をひとつ解き明かしてくれた。強気であっても無茶はしない。走行ラインに迷いがない。そして安定している。
サインツJr.の場合は父親があまりに偉大な存在であるけれど、マシンの挙動が乱れたときに取り戻す技は父親譲り。スピンをしても精神的には乱れていない──マシンに振り回されているわけではないのだ。
そして17歳のフェルスタッペンは“天才"という噂もなるほど──思いきりよく独自の走行ラインやブレーキングを見出していく。トロロッソのふたりは見ていて楽しくなるほど元気が良い走りをするが、とりわけ評価が高いのはターン3、ターン15という低速コーナーで彼らが発揮した創意工夫の技。
ルノーのパワーユニットは冬のテストから、ずっとドライバビリティの向上を課題としてきた。ドライバーにとって難題は低速域に入るとトルクに不安定な凹凸が発生して予測がつかないことで、その欠点がアルバートパークで最も色濃く表れたのがターン3、ターン15という低速コーナーだった。サインツもフェルスタッペンもミスをしたが、リカルドでさえ手を焼いているのが現時点でのルノーPUの欠点だと理解して見れば、彼らの対応能力の高さがわかる。
F1らしい高速コーナーがない公園の公道コースは、毎年、新人ドライバーたちに活躍の場を提供する。今年の3人も、実力が試されるのはこれからではあるけれど──きっと輝きを増す、楽しみな存在であることは確かだ。
(今宮雅子)
![](../pc/img/common/list/button_pre.png)