ーースポンサー企業の業種も変わってきますか?
「そう思う。まず、既存のスポンサーから得られる収入とレベルが合わない契約に合意すると、ビジネスモデルが不安定になる。だから、そうしたスポンサーを見つけるまで独自に努力しなければならない。我々はグループとして技術開発や技術製品を開発・製造している会社を持っているので、プリンシパル・スポンサーが見つかるまでは技術ビジネスの利益をF1に入れようと思っている。今やタイトル・スポンサーはもう存在しなくて、プリンシパル・スポンサーの時代になったということだろう。我々は技術の会社なので、露出だけが目当ての消費者製品ではなく、技術の進歩を目指している技術系の企業と手を組みたいと思っている」
ーープリンシパル・スポンサーとは?
「重要なスポンサーという意味だが、これまでタイトル・スポンサーが1社で出していた金額には届かなくても、F1活動を価値あるものと認めて出資してくれる企業だ。それも、我々はこれからは技術系の企業と手を組みたい。そのことによって、お互いの価値を高める方向に進んで行ける相手と一緒に仕事したい」
ーー新しいF1ビジネスの方向ですね。コリン・チャップマンが1968年にF1にスポンサーを持ち込んで以来、F1は商業化に邁進しました。その流れが今、マクラーレンによって変わろうとしていると理解して良いですか?
「新しい道を歩むということになる。我々はF1のビジネスモデルを変えようとしている。それには勇気とコミットメントが必要だ。でも、これは正しい方向だと思う。私がF1で働き始めた1966年から今までに、100余りのチームが入って来たり消えたりした。調べてもらえば分かるが206ほど(編集部調べでは204)だったと思う。平均1シーズンに2チームだ。これはF1コストが圧力になっているからだ。それをスポンサーマネーで賄おうとし、そのスポンサーが見つからない結果として小規模チームが消えていった。そのビジネスのスタイルを変えようとしている」
ーー例えばどのようにして?
「例えば、エンジンメーカー。今は大概自動車メーカーだが、彼らはエンジン開発費に糸目をつけないからエンジンの価格も非常に高いものになっている。それでは小規模チームには手が出せない。そこで最初はエンジンの価格を下げておいて、段階的にマージンを上乗せするようなシステムにすればいい。そうすれば小規模チームでもエンジンが手に入るはずだ。マクラーレンとホンダは状況が安定してくれば、他のチームでも購入できる価格のエンジンを提供するつもりだ。エンジンメーカー、自動車メーカーが研究開発費の負担を小規模チームに負わせるようなことになれば、それは詐欺のビジネスモデルになる。小規模チームにとってコストの負担が大きくなりすぎたら、彼らはF1が出来なくなる。マクラーレンはホンダと共に、そのビジネスモデルを変えていくつもりだ」
― 貴重な話しをお聞きしました。有り難うございました。
(赤井邦彦)