首位ハミルトンが31周目走行中、後方でクラッシュが起こります。ザウバーのエイドリアン・スーティルと、フォースインディアのセルジオ・ペレスが接触し、ペレスのフロントウイングが脱落。コース上にカーボンパーツが飛び散ります。これでSCが出動。このタイミングにまっさきに反応したのはアロンソでした。
トップ4台に限って言えば、この時点で首位ハミルトンと2位アロンソは、タイヤ交換義務を果たしていません。このSCのタイミングで、ふたりの選択が分かれます。26周目にタイヤを交換したばかりのハミルトンはそのままコース上にとどまることを選択しますが、これはSCが解除された後、2番手のマシンとの間に大きなギャップを築かなければならないことを意味します。1回のピットストップで失うギャップは、ここシンガポールの場合は約27秒と大きいものでした。一方アロンソはすぐにピットに入り、タイヤをSに交換して4番手で復帰、レッドブル2台と戦略を合わせ、コース上での勝負に挑むことを選びます。
SCが解除されるのは38周目から。ここからハミルトンは飛ばしに飛ばし、ベッテルとの差を広げていきます。当初はベッテルよりも1周につき3秒程度速いペースで飛ばしますが、徐々にタイヤの性能は劣化していき、差が広がる度合いが減少していきます。そして52周目に「もう限界」とピットインしてSSからSに交換。この時のベッテルとの差は25.3秒でした。
結局ハミルトンはベッテルの後ろでコースに復帰しますが、この時にはすでにベッテルのタイヤも劣化しきっており、コース上であっさりと首位を奪い返すことに成功します。ベッテルとの差を広げている間、ハミルトンは「プッシュし続けるのか、ペースを落としてタイヤを労わるべきなのか迷った」と言います。しかし、ここシンガポールはコース上で抜くのは非常に難しいサーキット。攻めに攻め、オーバーテイクを要するリスクを最小限に食い止めたところに、今回の勝因があったように思います。ただ、レッドブルとの間に27秒近くの差を築くことができるマシンは、今はこのメルセデスAMGだけ。その速さがあるからこそ、成し得た戦略と勝利だったとも言うことができるでしょう。