「オーバーカットが有効な、レアなケースだったんだと思う」と、ベッテルが言う。同様にステイアウトし、フェルスタッペンとボッタスをかわすことに成功したリカルドが、説明を加えた。

「このコースではポールポジションからスタートしないかぎり、多くのラップをトラフィックの中で走ることになる。だから、限界の状態のマシンを感じ取る時間がないんだ」

　スーパーソフトのウォームアップに時間がかかることを考えれば、論理的に、アンダーカットは難しい。ただし、自分のペースで走ることができていないぶん、前が開けるまではウルトラソフトのペースも未知数──。

　昨年、チームのミスによってモナコ初勝利を逃したリカルドは、今年のライコネンと同じように暗い表情でロイヤルボックスに上がった。でも今年は、3位でも満面の笑み。ベッテル以上に、オーバーカットのチャンスに確信を持って、作戦を成功させた。

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「僕がマックスに近づいて、マックスもバルテリに近づいていったと思う。それで僕らは接近したけど、あの時点で、前の2台は僕よりもタイヤに苦労しているように映った。マックスがアンダーカットを狙っていたかどうか知らないけど、きっとそうだと思う。僕はグループの後方にいて、エンジニアともうまくコミュニケーションしていた。彼には、僕がどんなペースで走れるか、僕に何が可能か、いいアイデアがあったと思う。だからステイアウトすることに、僕は満足だったよ」

　ベッテルとリカルドが、口を揃えて言う。ピットイン直前の数ラップは「本当に速かった」「予選以上にプッシュできた」。そして「最高に楽しかった」と──。大切なのは、この部分。

　最終コーナーを見渡す崖は、豪華なモナコで最も“庶民的”な自由席。伝統的に、イタリアからやって来るティフォシが埋めてきた崖は、フェルナンド・アロンソの活躍によって、バルセロナから“2連戦”を楽しむスペインのファンのものになった。いつしか、そこには様々な国旗が加わって……今年はたくさんのフェラーリファンが戻ってきた。

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「ここ数年は見られなかったほど、FORZA FERRARIのフラッグが目に入る。応援の声が聞こえる。チームにとって最高の1日になった。僕は……今日の僕は、ただ、幸福だ」

　赤いマシンで優勝すると、目に映る公国の景色が変わる。困難とハードワークを強いるコースが、こんなに優しくなる。そして、美しいハーバーがイタリア国歌に包まれた。スクーデリアに大きな誇りをもたらす1勝だ。

（Text：Masako Imamiya）

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