29周目には首位ロズベルグがピットインしてベッテルがトップに――第2スティント前半には13秒あったベッテルとハミルトンとの間隔は、この時点で6秒。ロズベルグに続いてベッテルもピットインすれば、少なくともコース上でハミルトンの前のポジションを守ることはできた。それにもかかわらずベッテルがステイアウトしたのは、最終スティントを短くしてソフトのニューセットにチャンスを賭けるためだった。
ベッテルが言うとおり「批判するのは簡単だし、僕らよりよく知ってるエキスパートはたくさんいるだろうけど」、それでもフェラーリがソフトに挑戦したのは“ハードタイヤは他のどのマシンよりメルセデスで作動する”ことが既成事実としてわかっていたからだ。オーバーテイクが難しい鈴鹿とはいえ、最終スティントも同じハードを履いてしまうとハミルトンの攻撃に耐えることはほぼ不可能。それより唯一、フェラーリにとって誤算だったのは、ステイアウトしたベッテルが暫定的な首位を走る間、セクター1で周回遅れのマシンに出会ってハミルトンに対するマージンをさらに失ってしまったことだった。
ロズベルグの4周後、メルセデスは33周目という絶妙のタイミングでハミルトンをピットに呼んでベッテルをアンダーカットすることに成功した。もしもベッテルがハミルトンの前のポジションを守れていれば、ソフトでの挑戦ももう少し長く続けられたかもしれない。しかし乱気流を受け、温度の低い路面を走る状態では、ソフトはあっという間に性能低下した。
速いマシンほど、どんな作戦も成功するというのがF1の定石――。
「ピットウォールだけじゃなくて、僕自身もソフトでの挑戦を望んだ」というベッテルは、僅差でもハミルトンの前のポジションを守りつつ、陽射しが訪れて路面温度が上がり、軽くなったマシンでソフトが作動するという奇跡に賭けた。結果は失敗。しかしコンサバティブにハードを履き続けても別のリスクは大きかった。抜かれることはほぼ確実だった。無謀に映るソフト作戦は、鈴鹿に対するベッテルの特別な思い、フェラーリの起死回生への思いでもあったのだ。
ハミルトンのスタート失敗の影響をいちばん受けたのはダニエル・リカルド。キミ・ライコネンのギヤボックス交換ペナルティによってグリッドポジションは上がったものの、4番グリッドの左端には黒く見える湿った路面が残っていた。そのため、リカルドはハミルトンより若干右寄りの位置にマシンを停止してスタートを待っていた――ハミルトンが好スタートを切れば、間違いなくロズベルグをけん制するために左に進む。リカルドにはイン側のスペースが開けるはずだったのだ。スタートの瞬間、普通に動き始めたメルセデスが直後に加速を止めるとは想像できなかった。
そんなリカルドとは逆に、ロズベルグの後ろについて難なく2番手のポジションを得たマックス・フェルスタッペンは、最初のストップでベッテルをカバーすることにも成功し、終始2番手を走り続けた。
「僕がペースを上げるとニコ(ロズベルグ)は必ず反応したし、ペースを落としたときにも同じだった。彼は完全にレースをコントロールしていたのだと思う」
だから、フェルスタッペンの目標はロズベルグ攻略ではなく、2番手を守り続けることになった。そこに攻撃を仕掛けたのが、最終スティントのハミルトン。フレッシュなハードを履いてペースを上げ、残り8周でDRS圏内まで迫ってきた。そこからは、前のポジションを活かすフェルスタッペンと、パワーに勝るメルセデスとの戦い。ハミルトンにとっては、乱気流のなかでタイヤ性能を維持しつつチャンスをうかがう展開になった。
52周目のスプーンの立ち上がりで、フェルスタッペンがミスをしたわけではなかった。しかし最後のチャンスにかけたハミルトンには、おそらくバッテリーを空にしてでも前に出れば最後の1ラップは凌げるという計算があったに違いない。バックストレッチでレッドブルの真後ろにつき、シケインのブレーキングでイン側――右に動いた。
先に動いた後ろのマシンに対して、ブロックする動きは今シーズン何度も問題視されているフェルスタッペンの反応。行き場を失ったハミルトンは接触を避けるためアウトに逃げ、その結果シケインにターンインすることができなかった。
こうしてマックス・フェルスタッペンは2位のポジションを守り、ルイス・ハミルトンはチームメイトの勝利を目にしつつ、自身は3位ゴールという微妙な結果を受け入れるしかなかった。
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