「技術的なやりとりを直接していたわけではないので、実態としては把握してはいませんでしたが、レース結果やトラブルの多さを見ているだけでも、新井さんが直面している大変さは想像できました。ただ、ひとつ言っておきたいのは、参戦までの短い準備期間を考えると、あの状況で昨年一年間戦ったことは素晴らしい仕事だと思っています」
その厳しい時期に総責任者としてホンダを指揮した新井氏。これまでの3年間で大変だったことはなんだったのだろう。
「いやー、すべてが大変だった。時間はない。経験値も少しほこりがかぶって錆付いていた。さらに現在の複雑なパワーユニットに対する理解度も低かった。3年間で一番辛かった時期は、昨年のオフシーズンからオーストラリアあたり。ここ(F1)に立っていていいんだろうかと思いました。あれから1年が経過して、こうしていま多くの周回数を重ねるなんて、当時は想像もできなかった。今後は研究所付きの主席顧問(エグティプチーフアドバイザー)として、私が経験したことで会社が発展できることがあればアドバイスしていきたい」
そう語る新井氏がメディアの前で公式にコメントするのは、今回が最後となる。「やりきった」という気持ちと、「やり残した」という気持ちのどちらが強いかと尋ねられた新井氏は、迷わずこう返答した。
「この仕事に、やりきったということはない。でも、会社のプロジェクトですから、それを引き継いでやってくれる人がいるということが大切。これから先もまだまだ大変な局面に遭遇すると思いますが、彼なら必ずモノにしてくれると信じています」
テストがスタートして2日間だけだが、ここまでのホンダの仕事を長谷川氏はどのように見ているのだろうか。
「まだわれわれの戦闘力が相対的にどれくらいあるのか、わからない。ただし、信頼性を改善させるという自らの目標に関しては、飛躍的に進歩していることは間違いありません。回生を上げるという課題も初日のジェンソンのコメントを聞く限り、だいぶ進化していると思う。ただし、ライバルたちに比べて、それで競争力が十分かいうと話は別。まだまだ厳しいというのが正直な印象です」
今回の総責任者が交代によって、組織やスタッフに大きな変更を加えることはないという長谷川氏。
「もちろん、必要であれば、改善することもありますが、現時点ではこれまでの体制を踏襲していくつもりです。去年一年間かけて苦労した経験を、これから活かしていくところですから、ここで変えるという考えは、いまはありません」
記者会見が行われたテスト2日目の2月23日。マクラーレン・ホンダのステアリングを握ったアロンソが周回したラップは119周。それは前日のバトンの84周を上回っただけでなく、ホンダがF1に復帰してから一日の最多ラップ数でもあった。
(尾張正博)