おそらく今年メキシコGPの観客にも、そう感じたベテランファンがいらしたのではないか。2007年からF1誘致を計画、2011年から具体的に“復興”へと取り組んだ主催者の努力があって、第16回メキシコGPは成功した。拍手と喝采のフィナーレはネガティブなF1不人気論をはねかえす明るさにあふれていた。
鈴鹿スタイルと大統領の新興グランプリ
順番が逆になるが、今年の日本GPは9月27日決勝に繰り上げられ、初日は心配どおり雨に見舞われた。それでも3万人が訪れ、土曜と日曜は昨年を超える入場者と発表。合計16万5000人、日本人ドライバー不在でも熱気ある鈴鹿はチーム関係者だけでなく海外メディアを驚かせ、思い思いのコスプレや自作グッズが話題になった。
他にない「スズカ・スタイル」が大ウケ、お子さん連れが多いことにも興味を持ったようだ。鈴鹿が次世代ファンを育てようとする配慮が評価され、チーム側もドライバーとのふれあいに協力、あちこちで、さまざまなイベントが開催された。これはモナコやイタリア、イギリスでは見られない景色だ。バーニー・エクレストンさんは欠席だったが、こういうオーガナイズこそ、いまのF1に求められるものだ。
翌々週の第2回ロシアGPは立派なソチ五輪会場にハコものが並ぶ。今年もウラジミール・プーチン大統領が列席、じきじきにエスコートするエクレストンさんは、ご満悦に見えた。1930年生まれの彼は、旧ソ連で“F1サーカス”を興業するのが長年の夢だった──80年代の後期に、直接そう伺った。
しかし早くも第3回の開催が一部で危ぶまれている。2年目は天候不順もあって4日間で14万9000人、メキシコの半分にも満たず、日本にも及ばなかった。2020年まで開催契約があり、ナイトレースも検討されているものの注視したい。
ニュルブルクリンクのドイツGPが消滅し、メキシコGPが盛況で終わった、全19戦の2015年。そのうちヨーロッパは、わずか7グランプリ。それだけ新興が増え、どんどんクラシック・コースがなくなっていく。スパ、モンツァ、シルバーストンまでも危うい内情が漏れ伝わる。温故知新ではないが、いまこそレトロGPとモダンGPの調和が図られるべきではないだろうか。来年の21戦は、いくらなんでも多すぎる。希少価値が薄れ、心に残るようなレーシング・ドラマを我々は覚えてはいられない。
(今宮 純/Jyun Imamiya)