レースはベッテルがポールポジションから、きれいに発進。驚くべきはその後わずか1周で、2番手のリカルドに3秒もの差をつけてしまったこと。
フェラーリvsレッドブル。オーバーテイクの難しいコースで作戦勝負になることは明らかで、ベッテルにとって重要だったのはスタートで首位の座を守ることと、リカルドをDRS圏外まで引き離すこと。それによって“アンダーカットさせない”自分たちの作戦を強固にするのだ。
第1スティント後半、ベッテルがわずかにペースを落としはじめると、リカルドは徐々にペースアップ。しかし、いったんは5秒以上まで広がっていたふたりの間隔が3秒台まで接近したところで、3コーナーでのニコ・ヒュルケンベルグとフェリペ・マッサの事故によってバーチャルセーフティカーが導入された。13周目という周回は、すでにタイヤ交換のウインドウに入っており、これはペースが落ち始めていたフェラーリにとって最高のタイミング。一方でタイヤに余力を残し、アンダーカットが可能な距離まで接近しようとしていたリカルドにとっては、序盤にセーブしたタイヤを活かせない最悪のタイミングになった。
「(アンダーカットに成功するという)保証はなかったけれど、セーフティカーを見たときにはフラストレーションを感じた」と、リカルドは説明する。
「ただ、ピットストップがもう1回あることはわかっていたから、同じようにもう一度チャンスを作っていくことは可能だと思っていた」
第2スティント序盤はベッテルも慎重に走った。互いにスーパーソフトのニューセットを履いた状態で、このスティントは20周以上の走行が必要になる。2台の間隔は1秒以内。ところが27周目、ベッテルが突然2秒以上ペースを上げたことによって差は3秒近くまで広がった。この駆け引きを、ベッテルはこう説明した。
「第2スティントは第1スティントとは、まったく逆の作戦で走った。ダニエルにとっても他の誰にとっても、残り40周をプライム1セットで走破することは不可能だとわかっていたから」
タイヤ交換には早すぎる段階ではアンダーカットを心配せず、リカルドにペースを合わせてスーパーソフトの性能を維持することに努めた。
「残り35〜36周くらいのところ(つまり25〜26周目)で、ピットインの可能性が近づいていることはわかった。同時に、メルセデスの1台がプライムを履いていることも知っていたから、彼らが最終スティントをオプションで攻めてくる可能性もあった。そこで『あと2周だ』と。その後ピットストップのウインドウが開こうというところでペースを上げて、ダニエルがピットインしてもアンダーカットができないだけの差をつけようとした」
すべてうまくいったとベッテルは満足げな笑顔。結果として、2回目のピットも37周目のセーフティカー出動によって決まってしまったが、27〜32周目までベッテルが連続して1分50秒台のハイペースで走行したことは、少なからず、作戦勝負に賭けていたレッドブルを困惑させたに違いない。
セーフティカーの原因は、コースに侵入したファン。「幅寄せして、びっくりさせてやろうかと誘惑にかられた」──悔しさのなかでも、リカルドはユーモアを忘れない。