得意のレッドブルリンクで、そんな勝利を実現した。フリー走行1回目から、マシンのバランスは快適。トリッキーな予選では最後のアタックの最後のふたつのコーナーで攻めすぎてポールポジションを逃したものの、マシンは自分のほうが仕上がっていると自信があった。最後のアタックでは、ハミルトンも1コーナーでミスをおかしていたのだから……「予選は予選」と割り切れたところで、ロズベルグのレース展望は昨年よりずっと開けた。フォーメーションラップのスタートでも、本物のスタートを決めるため、最大限のデータを送った。
ハミルトンのスタートの失敗は、発進の瞬間のホイールスピン。「スロットルペダルを緩めても回転が落ちなかったから、クラッチをつないだ時点で盛大にホイールスピンしてしまった」と、ゴール後に彼は説明した。
スタート時のプログラムやエンジンマッピングに関しては分析が必要であるものの、メルセデス・チームは「今日はニコのペースのほうが若干、優れていた」と認める。さらに35周目のタイヤ交換直後、ハミルトンがピット出口の白線を越えて5秒加算のペナルティを背負ったことによって、チームは「ふたりの戦いを乱した」という呵責を感じることなく、ロズベルグ - ハミルトンのオーダーを受け入れた。
それでも、首位ロズベルグが33周目にピットインしたあと、2番手のハミルトンを2周ステイアウトさせたところに“ハミルトン・チーム”の気概が表れている。メルセデスでは通常、前を行くドライバーが先にピットインする権利を持つため、後方のドライバーにアンダーカットのチャンスはない。したがってハミルトンのタイヤ交換が可能だったのは早くて34周目……その34周目に即ハミルトンを呼ばなかったのは、おそらくピットアウトしたロズベルグのペースがステイアウトしていた4位フェリペ・マッサに抑えられることに賭けたからだ。
32周目、ハミルトンは首位ロズベルグとの間隔を2.2秒まで詰めていた。さらに33周目、スーパーソフトタイヤの限界を迎え、ピット入口のスピード制限ライン手前で4輪をロックさせたロズベルグのインラップはハミルトン対比でプラス1秒。“期待”のマッサはロズベルグを抑えず34周目にピットインしてしまい、2周のステイアウトはかえってロスにつながったものの、すべてが“ハミルトン・チーム”の思惑通りに進めば、逆転のチャンスもゼロではなかった。チームとしての方針とは別に、レースエンジニアは自分のドライバーを勝たせるため最大限を尽くす。頭でスポーツする。その結末としてハミルトンがピット出口の白線を越えてしまっても……そこまで含めて、首位奪回への果敢なトライだったのだ。だからこそ、今日はニコに完敗だと認めているから、ハミルトンは多くを語らない。