そのハミルトンはレース序盤、ベッテル攻略に取りかかりますが、中低速コーナーが中心のコースレイアウトも影響し、どうしても抜けません。そこでピットは、戦略を“プランB”に変更することを考え、ベッテルの前に出ることを狙います。そして13周目終了後に、ハミルトンを最初のタイヤ交換に迎え入れるのです。
スタートの失敗こそあったものの、それを挽回するためには、この早期にピットに入れる作戦は功を奏していたように思います。しかし、このピット作業で、ふたつめの敗因が待っていました。タイヤ交換の失敗です。
ハミルトンはこのピットインでタイヤをミディアムからミディアムへと変更します。この時点で彼の戦略はまだ2ストップ作戦で、ベッテルを“アンダーカット(新しいタイヤを履いてペースを上げ、前を行くマシンがピットインした際に順位の逆転を狙う作戦)”を狙ったものでした。しかし、左リヤタイヤの交換に手間取り、通常よりも3秒ほどタイムをロスしてしまいます。
タイヤ交換にミスがなければ、ベッテルが次の周にピットインしても、ハミルトンの前でコースに復帰することはできなかったでしょう。しかし、ミスがあったことでベッテルにアンダーカットを阻止する余裕が生まれ、それを見逃さなかったフェラーリ陣営はベッテルをピットに招きます。フェラーリの作業にミスはなく、ベッテルがコースに戻ったのはハミルトンの前で。ハミルトンは再び我慢のレースを強いられることとなり、無線で「コース上でベッテルを抜くのは無理」と、弱音とも取れる発言もしています。そして3ストップ作戦に変更。第2スティントをかなり短く切り上げ、32周目に2回目のピットインを行ってハードタイヤに履き替えて、ゴールを目指すこととなります。
ところで、レースの45〜50周目にかけて、ハミルトンが先頭を走るシーンがありました。これはロズベルグが45周目に2回目のタイヤ交換をすべくピットに入ったために順位が入れ替わったモノですが、ハミルトンにはそのまま最後まで走り切り、勝利を目指すという考え方もあったはずです。その時ハミルトンが履いていたのはハードタイヤであり、“厄介”なベッテルは約20秒後方。すでにピットストップを行っても、ベッテルに先行される心配のない差を築いていました。背後からはロズベルグが迫りつつありましたが、抜きにくいバルセロナならば、そう簡単にオーバーテイクされないはず。しかし、48周目に1分29秒台だったハミルトンのペースは、49周目に1分30秒795、50周目に1分31秒115と徐々に落ちていきます。
おそらく、この時点でタイヤが限界を迎えたのでしょう。このまま最後まで走り切ったとしても、ベッテルとの差が縮まることはあれ、埋まることは考えにくい状況でしたが、タイヤが完全に摩耗してしまえば、ふたたびピットに入らなければらない可能性もあります。そうなった場合、再びベッテルに先行されることだけは避けたい……。実際には非常にリスクの高い戦略ですが、そのままハードタイヤで最後まで走り切って勝利を目指す、そんなハミルトンを見てみたかった気もします。
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