その速さがありながら、第2スティントではベッテルの方がハミルトンよりもコンマ1〜2秒速いペースで周回し、両者のギャップはそれまでの5秒前後から、一気に3秒台まで近づきました。ここで一番、窮地に追いやられたのが、両者の間に入っているロズベルグです。2番手ロズベルグはベッテルの差が1.5秒前後に縮まり、2番手のポジションを奪われかねません。「(ハミルトンに)もっと速く走ってくれと言ってくれ」とロズベルグは無線でチームのエンジニアに訴えますが、ハミルトンのペースは変わりません。
ペースを守ったまま前を行くトップのハミルトンの意図としては当然、タイヤと燃費とセーブしたいという思惑があるでしょうが、さらにその先の隠れた動機も見え隠れしました。後ろでベッテルとロズベルグを戦わせて、もしベッテルがロズベルグを抜けて2番手になれば、チャンピオンシップのライバルであるロズベルグとのポイント差をさらに広められる、という魂胆です。
第2スティントで見えたハミルトンのしたたかさが、どこまで本当なのかはもちろん、当人しか分かりません。ただ、確実に言えることは目先の勝利だけでなく、チャンピオンシップを見据えて考えられる精神的な余裕がハミルトンにあったことは確かだということです。実際、第2スティント終わりのピットストップ前のインラップで、ハミルトンはそれまでの1分43秒6前後のラップタイムから、1.4秒も速い1分42秒2を2周続けてマークしました。この1.4秒のギャップは、ベッテルのインラップのタイムとの差と同じです。プッシュすれば1秒以上、ベッテルより速い。この圧倒的な速さが心の余裕を生み出し、2番手以下のレースを、そしてチャンピオンシップまでをコントロールする欲求につながったと想像できます。
今回のレースの優勝争いは実質、このハミルトンの第2スティントのインラップで決まったと言えます。ベッテルが第2スティント終盤に狙った2度目のアンダーカットも、このインラップのタイム差では敵いません。さらに、フェラーリ&ベッテルはミディアムタイヤのパフォーマンスが懸念されていましたが、レースでの第3スティントのタイムも実際、ハミルトンから0.5秒以上遅いタイムしか刻めず、プライム(硬めの)タイヤでの弱点を露呈することになりました。第3スティントだけを比較すると、ベッテルはウイリアムズのマッサと同等以下のペースになってしまいます。
今回の中国GPはスタート時で20℃、路面温度が46℃と穏やかなコンディションでした。マレーシアGPのスタート時の気温33℃、路面温度61℃と酷暑のコンディションでのオプション(マレーシアではミディアム)タイヤではメルセデスを凌ぐ速さと周回数を誇ったフェラーリですが、同じミディアムタイヤでも、今回の中国のように気温が低めの場合、メルセデスとは逆に不利になってしまうことが露呈してしまいました。今後はハミルトンのしたたかなレースぶり、そして気温によってレース展開、そしてチームごとの勢力図がどう変わるのかも、大きな見どころになります。
(F1速報)