というのも、厳しい戦いが予想されたカナダGPの予選でアロンソはトップ10にあとコンマ3秒の12番手を獲得。レースでも終盤までポイント圏内を走行していたからだ。しかも、長谷川総責任者はその走りをある程度、予想していたという。つまり、メルセデスPUを搭載するフォース・インディアにはかなわないものの、ルノーPUを搭載するルノーやトロロッソ、フェラーリPUを搭載するハースとはほぼ互角。つまり、状況は昨年と大きく変わっていない。
そのことはタイムを見てもわかる。Q3で7位に入ったウイリアムズのフェリペ・マッサのタイムは1分12秒858。Q2のアロンソのベストタイムが1分13秒693だから、その差は約0.8秒。現在のF1は平均して10馬力=0.2秒と言われているから、マクラーレンとウイリアムズの車体性能が同じだと仮定すると、メルセデス・エンジンとホンダのPUの差は約40馬力ということになる。
したがって、「100馬力も劣っている」という批判に論理的な根拠はない。実際、スペインGPが行われたカタロニア・サーキットでの車載映像を比較すると、マクラーレン・ホンダがポールポジションを獲得したメルセデスAMGに対して差を広げられていたのは、直線区間よりもコーナーだった。車体も決してナンバーワンではない。
もちろん、だからといってホンダのPU開発を肯定するつもりはない。それは復帰3年目の今年、表彰台争いを狙っていたホンダ自身が、第2集団にいること自体に納得していないはずだ。だからといって、言われているほどパニックになるような深刻な状況でもない。じつはルノーも現在、性能面で課題を抱えているが、アップグレード投入の見通しは立っていない。
そういう意味では、いま抱えている最大の問題は再びトラブルが再発し始めていることだ。エンジンの性能が変わらなくても、もしトラブルに見舞われることなく、かつ入賞圏内を走行していたレースでポイントを獲得していれば、状況はいまとは大きく異なっていたはず。
ホンダにとっての喫緊の課題はパワーを上げることよりも、まずは性能を落とさずに信頼性を保つこと。焦りは禁物だ。
(Masahiro Owari)