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【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第19回後編】ミックの走行データのおかげで戦えたカタールGPは「会心のレース」

2021年12月2日

 2021年シーズンで6年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄エンジニアリングディレクター。3連戦の最後は初開催のカタールGP。ニキータ・マゼピンがシャシーにダメージを負い、データ収集はミック・シューマッハーひとりに任された。これまで金曜日の走りに課題を抱えていたシューマッハーだが、今回は「FP2の走りがあったからこそいいレースができた」と評価できるほどの働きをしてくれたという。


 コラム第19回は、前編・後編の2本立てでお届け。後編となる今回は、カタールGPの現場の事情を小松エンジニアが振り返ります。


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2021年F1第20戦カタールGP
#9 ニキータ・マゼピン 予選20番手/決勝18位
#47 ミック・シューマッハー 予選19番手/決勝16位


 最後の3連戦、最終戦は初開催のカタールGPです。ロサイル・インターナショナル・サーキットはほとんどのコーナーが中高速コーナーです。イスタンブールのターン8のように長いターン12〜14は時速250kmを超える高速コーナー。クルマにダメージを負ったドライバーも多かったターン4〜5も時速200km以上で通過します。唯一の低速コーナーはターン6で、ここは時速100kmまで最低速度が下がります。また、このコースには起伏がほとんどありません。個人的には起伏があるサーキットは乗る側にとっても観る側にとっても醍醐味があると思うので、少し残念です。語弊があるかもしれませんが、インテルラゴスのようなテクニカルなコースと比べて、ドライバーにとってそれほど難しいコースではないかなという印象でした。


 また路面も荒くないし、海風による劣化なども感じませんでした。おそらくあまり使われていないというのも理由のひとつでしょうね。もちろんFP1の走り始めはあまりいいコンディションではなかったですが、それも想定内でした。

ミック・シューマッハー&小松礼雄エンジニアリングディレクター(ハース)
2021年F1第20戦カタールGP ミック・シューマッハー&小松礼雄エンジニアリングディレクター(ハース)


 そんなカタールで問題だったのは、赤白縁石の外側にあった緑の縁石です。FP1ではニキータがターン4でスピードを乗せて突っ込みすぎてアウト側に膨らみ、ターン5に向けて緑の縁石を跨いでコースに戻った際にシャシーを壊してしまいました。緑の縁石自体にそれなりの高さはありますが、コースから外方向に出ていく分には傾斜もなだらかです。反対に外側からコースへ戻ろうとすると、角度が急になっているので、そのぶんクルマへの衝撃が大きいのです。


 オンボード映像で見る限りはそれほど大きな影響があるようには見えないかもしれませんが、実際はかなり大きなダメージで、これが原因でニキータはシャシーを交換することになりました。予選でも同じ場所でフロントウイングを壊しましたし、レース後にニキータのマシンをチェックした際にもシャシーとフロントウイングにさらなるダメージが見つかりました。フロントウイングはノーズと羽根をつないでいる部分にかなりダメージを負っており、もしこれがレース中にわかっていたら、ウイングが落ちてしまう恐れがあるのでピットインしてウイングを交換していたと思います。


 FP1でシャシーを壊したニキータはFP2を走れず、続くFP3ではシャシー交換に関連した電気系の問題でエンジンにミスファイアが出て、このセッションも走れませんでした。ですから予選はほぼぶっつけ本番の状態だったので、ミックとの差はどうしても開いてしまいました。さらに金曜日と土曜日では風向きもまったく変わっていて、ターン2、4、5は向かい風に、高速のターン12、13も向かい風でクルマのバランスがガラっと変わりました。FP3を走れていないので予選前にこれも経験することができなかったのは大きなマイナス要素です。しかし、その理由は元を辿ればニキータがFP1でシャシーを壊したことなので、本人もそのことをわかっていて反省していました。

ニキータ・マゼピン(ハース)
2021年F1第20戦カタールGP ニキータ・マゼピン(ハース)


 フリー走行をほとんど走れていないことを考えると、レースでは比較的よくやってくれました。ニキータはミディアムタイヤ、ミックはソフトタイヤでスタートし、第1スティントではミディアムタイヤを活かしてなんとかミックについていくことができたので、これはある程度評価してもいいと思います。


 事前にハードタイヤは使わないと決めていたので、あとはどのタイミングでソフトに交換するかだけです(あとで詳しく書きますが、1ストップにするのか、2ストップにするのかを臨機応変に変えるつもりでレースに臨みました)。ピットストップを考え始めたタイミングではまだ1ストップ戦略の方が早く走れるという予測でした。しかし1ストップにすると、先にピットインした2ストップ勢に抜かれる際のロスと青旗によるロスが大きいのが問題で、ニキータは実際30周目の時点で、すでに22周目にピットインしていたミックに追いつかれてしまいました。

ニキータ・マゼピン(ハース)
2021年F1第20戦カタールGP ニキータ・マゼピン(ハース)


 チームとしては、ニキータがこういう状況に陥るのは避けなければいけないことでした。ピットストップをしていないのに、1回分のピットストップと同じくらいのロスをコース上でしてしまったのは、レース前の予測の精度が足りなかったからで今回の反省点です。結局ニキータは31周目にソフトタイヤに交換し、その後も青旗でかなりタイムをロスしてしまいましたが、レース終盤にフリーエアーで走れるようになってからはいいペースで走っていました。これも評価していいと思います。


 メキシコGPの予選ではニキータといろいろありましたが、ブラジルGPの前に彼とはよく話しました。ここ2戦では少しアプローチがよくなったと感じています。カタールではクルマを壊してしまいましたが、彼のレース内容自体は悪くなかったと思います。これからも自分のやるべきことに集中して、最後の2戦でいいレースを見せてほしいです。

ニキータ・マゼピン(ハース)
2021年F1第20戦カタールGP ニキータ・マゼピン(ハース)

■今までの反省が活きた週末。ミックの走行データがあったからこそ戦えた日曜日

 ニキータがFP2、3を走れなかったので結果的にチームはミックひとりのデータに頼ることになりましたが、今回はチーム全体として満足のいくデータが採れました。本来FP2ではニキータがハード、ミックがソフトで走る予定だったので、ミックは予定通りソフトでロングラン。この時こちらからは「ここのコーナーではこういうふうに走ってほしい」などといろいろな指示を出したのですが、ミックはそれをきちんと実践し、かつタイムを落とさずに走ってくれました。おかげで質の高いデータを採ることができてタイヤの理解も進みました。すごく地味な作業ですが、これを今までで一番よくやってくれました。


 このデータががあったからこそ日曜のレースでしっかり走れたのです。これまで何度かコラムにも書きましたが、ミックはFP2のランが遅くて、レースになってからペースが上がることが何度かありました。こうなるとせっかく集めたFP2のデータがレースであてはまらないのです。今回はこの反省点を活かして、金曜からいい仕事をしたのがレースに繋がりました。

ミック・シューマッハー(ハース)
2021年F1第20戦カタールGP ミック・シューマッハー(ハース)


 レース戦略については、計算上は1ストップの方が速いというのが明確でした。ただ1ストップだとタイヤの磨耗がギリギリになるので、ピットストップできるタイミングがかなり狭くなります。早めにピットインすると第2スティントでタイヤが保たなくなるし、第1スティントを伸ばしすぎるとタイヤがダメになります。だから1ストップ戦略のために「◯周目にピットインしよう」と決めてレースをすると、そこに到達するまでにタイヤを労わる必要があり、ラップタイムがどうしても落ちます。これでは今のウチのクルマではまったくレースになりません。


 ですからレースではFP2と同じように走って、その結果1ストップでいけそうなら1ストップ、ダメそうなら2ストップとレース中に判断する形をとりました。このやり方がうまくいきました。ソフトでスタートしたミックはいいペースで走れていたので、アルファロメオの2台が1回目のピットストップを終えた段階ではそれをカバーするためのピットインはせず、その後ウイリアムズ勢がタイヤを交換したタイミングでもタイムが落ちていなかったので引っ張り続けました。


 その後、9周目にタイヤ交換を行った角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)選手が追いついてきそうだったので、彼に抜かれる際のロスを避けるために22周目にピットイン。コースに戻った後の青旗もマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)だけでした。コース上の状況とタイヤの磨耗状況を見てピットインさせましたが、これ以上ないタイミングだったと思います。


 残り34周をミディアムで走りきるのは大丈夫だとは思っていましたが、結構ギリギリだというのも理解していたので、ミックにはいくつか指示を出し、彼もそれを守ってくれました。この第2スティントではタイヤを労わりながら走り、2ストップのアルファロメオ勢に抜かれてもパニックにならず、最後はタイヤがダメになっていたニコラス・ラティフィ(ウイリアムズ)や彼の後ろで詰まったアントニオ・ジョビナッツィ(アルファロメオ)も抜けるだろうという感じでした。結局ラティフィはタイヤのパンクでリタイアになり、その影響でVSCが出たのでジョビナッツィにも追いつけず……。最後の最後にはセルジオ・ペレス(レッドブル・ホンダ)の青旗もありました。タラレバですが、VSCと青旗がなければミックはジョビナッツィを抜いていたと思います。

ミック・シューマッハー(ハース)
2021年F1第20戦カタールGP ミック・シューマッハー(ハース)


 ウチのクルマはアルファロメオやウイリアムズよりも遅いですが、そのクルマで彼らと勝負ができたのは、1ストップ戦略をしっかりと実行できたからです。そしてどうしてそれができたのかといえば、きちんとFP2を走ることができたからです。レース後にはチームのみんなにもミックにもそう伝えましたし、会心のレースでした。


 それからカタールではフェルナンド(・アロンソ/アルピーヌ)が久しぶりに表彰台に乗りましたが、やっぱり彼はドライバーとして本当にすごいなと思いましたね。アルピーヌには今も仲のいいスタッフがたくさんいるのでよかったです。それと同時に、僕らもまた彼らと戦えるところまで戻らないといけないな、と実感した次第です。

キミ・ライコネン(アルファロメオ)、ミック・シューマッハー(ハース)、セバスチャン・ベッテル(アストンマーティン)
2021年F1第20戦カタールGP キミ・ライコネン(アルファロメオ)、ミック・シューマッハー(ハース)、セバスチャン・ベッテル(アストンマーティン)

小松礼雄エンジニアリングディレクター(ハース)
2021年F1第20戦カタールGP 小松礼雄エンジニアリングディレクター(ハース)



(Ayao Komatsu)


レース

11/1(金) フリー走行 結果 / レポート
スプリント予選 結果 / レポート
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予選 結果 / レポート
11/3(日) 決勝 結果 / レポート


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5位カルロス・サインツ244
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7位ルイス・ハミルトン190
8位セルジオ・ペレス151
9位フェルナンド・アロンソ62
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チームランキング

※サンパウロGP終了時点
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2位スクーデリア・フェラーリ557
3位オラクル・レッドブル・レーシング544
4位メルセデス-AMG・ペトロナス・フォーミュラ1チーム382
5位アストンマーティン・アラムコ・フォーミュラ1チーム86
6位BWTアルピーヌF1チーム49
7位マネーグラム・ハースF1チーム46
8位ビザ・キャッシュアップRB F1チーム44
9位ウイリアムズ・レーシング17
10位ステークF1チーム・キック・ザウバー0

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