もしかしたら、ちょっとだけ笑ってるんじゃないかな、笑いたいんじゃないかな……と、想像力を膨らませて見守る表彰台で、シャンパンファイトならぬ炭酸飲料ファイトを始める前に、まず大きなひとくち。インタビューが始まればマイクの音声が落ちているというオチも、ファンを裏切らないものであった。
キミ・ライコネンが表彰台に立つと、みんなが晴れ晴れとした気持ちになる。それはきっとF1ドライバーとしての超人ぶりと天才的な頭脳が、ごく日常の「あらっ?」という瞬間と見事なコントラストを成すからだ。コース上のキミは、サーキットの上空からレースを眺めているようにすべてを把握し、完璧にコントロールした。ライコネンならでは──他の誰にもできないレースで、メルセデスにプレッシャーを与え続けた。
第1スティントはソフトで17周(予選と合わせるとタイヤの履歴は20周)、第2スティントはミディアムで23周。ペースを落とさず虎視眈々と狙っている様子は明らかで、彼の最終スティントを想像するとメルセデスも自在にペースを緩めるわけにはいかなかった。
ニコ・ロズベルグのブレーキ・バイ・ワイヤ(BBW)が56周目の1コーナーで破綻しなくとも、ライコネンは2位を奪っていただろう。レースがあと3周長く続けば、57周目の1コーナーでBBWを失ったルイス・ハミルトンもキミの攻撃に耐えることはできなかっただろう。
ライコネンはシンプルに「最後はラップが足りなかった」とだけ言った。メルセデス2台がブレーキの過熱によってBBWに問題を抱えるとは、フェラーリに予測できるはずもなかったが、レース序盤から何度も聞こえてくるメルセデスの無線を聴いていれば、彼らのブレーキが限界ぎりぎりであることは想像できた。攻めることによって、相手のトラブルを誘発する──フェラーリのマシンはそれが可能な位置まで来た。ライコネンは、追い詰めて仕留めることが得意なドライバーだ。