ＦＩＡのマックス・モズレー会長は、レース中の事故が訴訟に発展する恐れがあるという問題について、各Ｆ１チームに慰めとなる言葉を送る一方で、妥協が成立するまでは深刻な状況に変わりはないことも認めた。
最近導入されたＥｕｒｏｐｅａｎ Ａｒｒｅｓｔ Ｗａｒｒａｎｔ（ＥＡＷ）は、それに署名した国の裁判官に、広範囲の“犯罪”に関して逮捕を命じる権限を与えるものだ。これは、死者や重傷者の出たレース中の事故における過失にも適用されることになる。それによってチーム関係者に及ぶリスクについて、法律家でもあるモズレーは、英インディペンデント紙に対して説明した。
「Ｅｕｒｏｐｅａｎ Ａｒｒｅｓｔ Ｗａｒｒａｎｔは、非常に深刻な問題だが、解決はそれほど難しくはない。要するに、それは３２ほどの罪に適用され、さらに二重の犯罪行為の条件に当てはまる場合に適用される。すなわち、逮捕を要請する国での犯罪であるとと同時に、要請される国での犯罪でもあり、少なくとも１年の禁固刑を申し渡される可能性がある場合に適用される」
「つまり、いずれ２５カ国となる加盟国では、誰かがそれらの諸国のどこにいても、裁判官は逮捕を命じることができ、その裁判官の居住する国に収監することができるということだ。一応の証明がある事件については、まったく必要条件のようなものはなく、それが逮捕状の当該人物であることさえ証明できればいい。『まったく馬鹿げている、その日はそこに行きもしなかった』などという申し開きは許されない」
ローランド・ラッツェンバーガーとアイルトン・セナが１９９４年にイモラで死亡してから１０年、ＥＡＷの施行は特に重要な意味を持っている。ウイリアムズＦ１のテクニカルディレクターであり当時デザイナーだったエイドリアン・ニューエイは、セナの死亡事故に端を発するいくつかの裁判にすでに直面してきており、さらなる控訴審が開かれようとしている。将来事故が起きた場合、ＥＡＷによって、さらに大きな強制力が生ずる可能性がある。
モズレーは次のように続けた。「チームの代表者たちが心配しているのは、何もかも素早くいいかげんに決まってしまったため、保釈規定もなければ、国際的な規定もなく、どんな裁判官でもこれを命じられるということだ。ということは、どこの国の監獄に入れられるかもしれず、裁判官がやってきて、こんな風に言うかもしれないのだ。『これがさほど深刻ではないことはわかっていますよ。有罪を認めさえすれば、執行猶予の判決が出て、ちょっと罰金を払うことになるかもしれないが、明日の午後には飛行機で帰国できるでしょう』とね」
「しかし、もしも『嫌です、自分が有罪だとは思いません』と言った場合、その返事は『ああそうですか。そうなると、裁判までに何カ月か、ことによると１年くらいかかるかもしれませんね。それまで、ここにいてもらわなくちゃなりませんよ』というものになるだろう」
「誰にとっても、非常に危険なことだ」と、Ｆ１界の帝王バーニー・エクレストンは、同じインタビューで語った。そして、問題の解決の糸口について、次のように述べた。「各国の政府は、私たちのために法律を変えることはしてくれそうもないが、事故が起きた場合、この取り決めが私たちには適用されないということをはっきりさせることはできるだろう」
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