ホンダがパワーユニットを供給しているレッドブル、トロロッソの活躍を甘口&辛口のふたつの視点からそれぞれ評価する連載コラム。レースごとに、週末のレッドブル、トロロッソのコース内外の活躍を批評します。2019年F1第17戦日本GPを甘口の視点でジャッジ。
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母国グランプリとなるF1第17戦日本GPに向けて、ホンダの田辺豊治F1テクニカルディレクターは、こう語っていた。
「4台完走、4台入賞」
しかし、その目標はスタート直後の2コーナーで露と消えた。予選5番手から好スタートを決めたマックス・フェルスタッペン(レッドブル)が2コーナーで、フェラーリのシャルル・ルクレールに押し出され、スピン。マシンに大きなダメージを負ったフェルスタッペンは、14周目にピットインして、そのままリタイアした。
この瞬間、田辺TDの「4台完走、4台入賞」は叶わぬ目標となってしまったが、ホンダがここまで準備してきたことがすべて無駄になったわけではない。ペナルティを覚悟して前戦ロシアGPで2基目となるスペック4を投入して、万全の体制で臨んだ鈴鹿で、ホンダのパワーユニットに問題は一切、生じなかった。
今回、鈴鹿にエクソン・モービルの新しい燃料が投入されたことも、忘れてはならない。新燃料投入にあたっては、ホンダのベンチでの数カ月も前からテストを重ねてきた。
今回、テスト同様、「実走行でもパワーアップが確認された」(田辺TD)ことは、大きな収穫だったといっていいだろう。ホンダは昨年からエクソン・モービルとパートナーを組んでいるが、新燃料を使用するのは今回が初めてだった。ホンダとエクソン・モービルのパートナーシップはまだ2シーズン目。今回の新燃料投入が成功したことにより、燃料の開発は今後さらに加速していくことが予想される。
この新燃料はホンダPUの燃料システムに合わせて開発されたものだが、じつはこの新燃料開発にあたっては、ホンダの先進技術研究所に在籍する燃料分野のエキスパートのサポートがあった。すでにホンダは昨年から、「HRD Sakuraの数百人のメンバーだけでなく、ホンダのすべての研究所から、必要な人材と知見を持ち寄って戦おう」という号令がかかっており、昨年のMGU-H(熱エネルギー回生システム)の信頼性向上と今年のスペック3からのターボには航空エンジン研究開発部門が有する知見と技術が入っている。
昨年の日本GPでは投入したばかりの新PUにオシレーション(共振)の問題が出て、予選後セッティングを変えてレースに臨もうとしたが、その変更がFIAに認められずに、悔しい思いをした。しかし、今年はホンダのパワーユニットにトラブルが一切発生しなかっただけでなく、セッティング面でも不具合は起きなかった。
「4台完走、4台入賞」は果たせなかったが、アレクサンダー・アルボン(レッドブル)は自己最高位となる4位を獲得。ピエール・ガスリー(トロロッソ)もリヤサスペンションにトラブルを抱えながらも8位に入賞した。
今年、レッドブルとともに2勝を挙げていたホンダには、多くのファンがこの鈴鹿で2004年のジェンソン・バトン(BAR・ホンダ)以来の表彰台、あるいは1991年のゲルハルト・ベルガー(マクラーレン・ホンダ)以来の優勝を期待していた。しかし、15年に復帰したホンダにとって、鈴鹿での入賞は復帰後、初めてで、2006年のジェンソン・バトン(ホンダ)の4位以来、13年ぶりのことだった。さらにホンダ勢のダブル入賞は、2004年のバトン(3位)、佐藤琢磨(4位)以来、15年ぶりのことだった。
そんな事実を忘れてしまうほど、今年のホンダはたくましくなって鈴鹿に帰ってきたということを、忘れてはならない。
(Masahiro Owari)