レースを見終わった後、得も言われぬ心地よさに包まれたのは、メキシコの陽気なファンのおかげだろうか。
自分たちのヒーロー、13番グリッドからスタートしたセルジオ・ペレスは着実にポジションを上げ、十分に7位を狙える活躍を見せていた。しかしレース中盤、ブレーキトラブルが彼を襲った。ペレスが姿を消すと、エルマノス・ロドリゲス・サーキットは意気消沈してしまった。
それでも、レースを見放さないのがメキシコのファン。コース上で繰り広げられる接戦に元気を取り戻し、最後まで声援を送り続け、ゴールの後にはメキシコの勝者マックス・フェルスタッペン、2018年シーズンの勝者ルイス・ハミルトンに、惜しみない賞賛を送った。
スタジアムセクションは、F1的には迫力に欠ける区間。それでも、F1愛に満ちた観客の存在が、ここを特別な場所にする。難しい解説など必要とせず、レースを肌で感じ取る術に長けた彼らの“祭典”に、誰もが加わりたいと思う。そんなファンに、十分に応えるレースだった。
■“ドライバーズ・オブ・ザ・デイ”に値する走りを見せた敗者たち──
ドライバーズ・オブ・ザ・デイは、眠れない夜を超えて勝利を手にしたフェルスタッペン。
「ポールポジションの最年少記録なんて気にしていない。予選でフラストレーションを抱えたのは、ポールポジションを狙うための最適なパッケージを手にしていなかったからだ。FP2とまったく同じようにリヤがロックする問題が発生した──。すべてをベストにまとめることが必要な予選で、あまりに難しい状態だった」
「勝ちたい」気持ちのぶんだけ、悔しさが募ったと言う。このサーキットで勝つには、首位で発進することが大切だったから。レッドブルで勝つためには、チャンスの大きなこのサーキットを“逃す”わけにはいかなかったから。
そんな気持ちのすべてを、スタートに込めた。結果は大成功──。元来、自分は“緊張”というものを経験したことがないのだとフェルスタッペンは言う。
「スタートの瞬間は、たしかに一番集中する。でも、それは緊張とは違う」
クリーンな空気のなかで走る主導権を得て、2年連続のメキシコ制覇に向かって順調に周回を重ねた。彼が言うとおり、簡単な勝利など存在しない。それでも、ライバルと比べても最もスムースなレースを走って勝利を手に入れた。