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今だからこそ語れるF1黒歴史。F1速報創刊30年本からシューマッハーとアロンソ、ふたつのニュースを紹介

2020年5月10日

 この6月で、『F1速報』は創刊30周年を迎える。1990年に創刊してから今日までレースbyレースでF1グランプリを追い続けてきた『F1速報』では、実にさまざまな人間&技術ドラマが展開させてきた。今回その30年間を集大成した『F1速報』の30年という記念ムックを刊行。本誌に長く携わってきたF1ジャーナリスト、ルイス・バスコンセロスが30年間のトップ10ニュースを選抜した。その一部を紹介したい。


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●10大ニュース・ピックアップ?
いかにして当時のFIA会長モズレーは1994年シーズンを崩壊させたか

 F1史において、1994年シーズンは最も悲惨なシーズンのひとつに挙げられるだろう。ローランド・ラッツェンバーガーとアイルトン・セナの命を奪った痛ましい事故はいまだに人々の心にのしかかっているが、そもそもこのシーズン全体が不必要な論争や陰謀、そのほか個人的な愛憎劇などで台無しにされたと言える。


 まず前提として、セナとウイリアムズが、この年の選手権を制したのち、F1から離脱すると見られていた。チームは前2シーズンを完全に制覇していたし、セナのキャリアも最高潮に達していたからだ。ただしミハエル・シューマッハーの実力については、まだ誰も気づいていなかった。


 シューマッハーのベネトンB194はトラクションコントロールを搭載し、ギヤボックスも完全なるオートマチックであったが、これをFIAが把握していたということは、今日では多くの人が知ることである。しかし、セナとウイリアムズが勝って選手権から離脱するのを防ぐ唯一の手段と期待し、黙殺したのだ。


 イモラでの悲劇で状況は一変し、伝えられるところによると、ベネトンのスポーティングサイドを担っていたトム・ウォーキンショーに対し、モズレーは「残りのシーズンはB194がレギュレーションに準拠するようにしてほしい」と明言したとされている。


 しかし、この一件が露見するようなリスクをFIAが犯すはずもないと踏んだウォーキンショーは、警告を無視するどころか、マシンや燃料補給システムで実質的なレギュレーション違反を重ねていった。モズレーはFIAの裁定所にチームを訴えたが、裁判で真実が公になれば、彼もまた仮面をはぎ取られることは自明の理だった。


 そこでモズレーは想像もつかない行動に出た。起訴人代表として、被告側の法廷弁護士である高名なジョージ・カーマンを聴聞会の前夜に呼び出し、秘かに合意を結んだのである。


 結局ベネトンは無罪放免となり、シューマッハーはシーズンの4分の3を違法なマシンで走ったにもかかわらず自身初のワールドタイトルを獲得することになった。しかしウォーキンショーはシーズン末にベネトンから放出された。これは当時のチームマネージャーであるフラビオ・ブリアトーレとともにモズレーと交わした合意内容に含まれていたためだった。


 そのわずか1年後、モズレーが目をかけていたニック・ワースが驚くことにベネトンのテクニカルディレクターへと任命された。ただし、この采配によりチームは下降線を辿ることになり、95年シーズンを限りにシューマッハーはフェラーリへ移籍。チームも2000年にルノーに買収され、02年からルノーとして参戦するに至り、ベネトンとしての幕を閉じた。

1994年にチャンピオンを争ったミハエル・シューマッハー(左)とデイモン・ヒル(右)
1994年にチャンピオンを争ったミハエル・シューマッハー(左)とデイモン・ヒル(右)


ミハエル・シューマッハーが初チャンピオンとなった1994年のマシン、ベネトンB194。フォードZETEC-Rエンジンを搭載。
ミハエル・シューマッハーが初チャンピオンとなった1994年のマシン、ベネトンB194。フォードZETEC-Rエンジンを搭載。

1993年から16年にわたりFIA会長を務めたマックス・モズレー。2008年のセックススキャンダルなどが原因で一線を退いた。
1993年から16年にわたりFIA会長を務めたマックス・モズレー。2008年のセックススキャンダルなどが原因で一線を退いた。

●10大ニュース・ピックアップ?
アロンソvsハミルトン、マクラーレンの見事な内部分裂

 2007年のシーズン開幕時、マクラーレンにはすべてが揃っているように思われた。エイドリアン・ニューウェイが2年前にチームを離脱したなかで作り上げたベストマシンMP4-22、フェルナンド・アロンソと新人のルイス・ハミルトンというベストドライバーコンビ。そしてメルセデスというベストエンジンもある。


 潤沢な予算をもとに磨き上げられた武器と、ミカ・ハッキネン在籍時代にチャンピオン獲得を経験した組織力があれば、ロン・デニスのチームの成功は約束されたもののように思われた。


 一行が第11戦ハンガリーGPを迎えた際、選手権暫定トップのハミルトンはアロンソに対し2ポイント、さらに3位のキミ・ライコネンに対しては18ポイントもの差を築いていた。ひとつ付け加えておきたいが、当時は1レースで最大10ポイントしか計上できなかった。


 コンストラクターズ選手権ではマクラーレンがフェラーリに12ポイント差をつけており、再びのタイトル獲得へ突き進んでいた。しかもハンガロリンクでのプラクティスが始まると、フェラーリにはマクラーレンに拮抗する材料も見えてこない。


 ところが予選の最終セッションで、マクラーレン勢は砕け散った。計画では、アタックまでに少しでも多くのラップを走って燃料を消費し、先にアロンソが暫定ポールポジションを狙うという作戦だった。


 ところがハミルトンはアロンソを先行させるのを拒んだ。そこでアロンソはチームメイトより1周早くピットインし、新しいタイヤに交換した後もピットに残り、ハミルトンの2回目のアタックが時間切れになるまでそこに居座ったのだ。モナコGPからくすぶっていたふたりの争いはついに燃え上がった。こういった衝突を解決するのに一番向いていないのがデニスだ。

強力なライバル関係となったアロンソとハミルトン。その意識がエスカレートし、コース上でお互いを妨害し合うことに
強力なライバル関係となったアロンソとハミルトン。その意識がエスカレートし、コース上でお互いを妨害し合うことに


 アロンソにペナルティを科すよう、ハミルトンは個人的にチャーリー・ホワイティングへ電話をかけた(実際そのとおりになった)。一方のアロンソは、フェラーリへの産業スパイ行為が疑われるとして、FIAに訴えるとマクラーレンを脅しにかかった。


 そして、それがきっかけとなりフェラーリで一線から退けられたことを不服としたナイジェル・ステップニーが、F2007の設計図をマクラーレンのチーフデザイナーであるマイク・コフランに流していたことが明らかになったのだ。コフランはプレッシャーに苛まれた末、フェラーリから複数のエレメントをコピーしマシン開発に採用していたが、マクラーレン内部でその行為に気づいた者はほとんどいなかった。


 この事態を招いて驚いたことに、デニスは自らマックス・モズレーに電話をして(彼が最も苦手なことだが)状況を説明すると、自分も含めチームはコフランの行為に気づいていなかったと主張した。


 かねてからデニスのことを毛嫌いしていたモズレーにとっては、長いこと待ちわびたチャンスが訪れた。マクラーレンに1億ドルという前例のない高い罰金を科し、07年のコンストラクターズ選手権から除外するとしたのだ。罰金を支払ったのは無論メルセデスであり、これが火種となって10年にはマクラーレンとのワークス契約を放棄。ブラウンGPを購入し実に55年ぶりにワークスとして復活することになったのである。


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『F1速報の30年』では、こういった当時のF1ニュース再検証の他、本誌執筆陣によるF1速報から見た歴代ドライバーやシーンの再分析、本誌の成り立ちなど「日本のファンが体験してきたF1の30年」を独自の視点から振り返った1冊となっている。


 また、津川哲夫/川井一仁/浜島裕英氏による対談で、ここ30年のベストドライバー、ベストマシン、ベストレースを決定。中嶋一貴と小林可夢偉がF1に一緒に参戦していた頃の回顧対談も収録。


『F1速報の30年』は全国書店やインターネット通販サイトで発売中。




(ルイス・バスコンセロス)


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