2016年F1第4戦ロシアGPでは、セバスチャン・ベッテルとダニール・クビアトがスタート直後に接触。前方の混乱をうまく切り抜けたフェルナンド・アロンソがレース終盤に自己ベストを記録。なぜ燃費セーブモードから突如タイムアタックを行ったのか?アロンソから送られてきた無線交信からレースの状況を見てみよう。
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レースが終盤に差し掛かった48周目、タイミングモニター上のフェルナンド・アロンソのタイムがグリーンに光った。1分40秒476。ここに来て急に、巡航ペースよりも2〜3秒も速い自己ベストタイムを叩き出したのだ。
何事かとざわつくピットガレージに、無線が飛びこんできた。
「“ノーマル”に戻すよ。1周だけ楽しみたかったんだ」
全開率の高いソチ・アウトドロームでは、他チームと同じようにマクラーレン・ホンダもかなりの燃費セーブを強いられていた。
「前も後ろも誰もいないよ!」
スタートで好加速を決め、1周目の混乱を上手く切り抜けたアロンソは、10周目以降は一人旅が続いていた。
チーム関係者が「セーフティカーが1回入ったくらいでは、とても足りない。3回くらい入ってくれないと」いうほど、燃費は厳しかった。攻めて走る必要のない場面では、ストレートエンドでスロットルを戻して燃費を稼ぐことに専念しなければならず、ドライバーとしては決して楽しいものではない。
「クルマのフィーリングは良かったよ。レースの大半で燃料セーブをしなければならなかったけど、ある時点でちょっと目を覚まそうとクイックラップをやったんだ(笑)。それで全体で5位のタイムを記録できたんだから、ポテンシャルがあるのは証明できたね」
そのためにアロンソは数周前から必要以上に燃費をセーブして“貯金”をつくり、その余裕を1周だけに集中して吐き出し、タイムアタックをしたのだ。
アロンソは最終ラップにも自己ベストを更新し、首位ニコ・ロズベルグの1.253秒落ちの5位タイムを記録している。
それが、このマシンのポテンシャル。レース展開の幸運に恵まれたとはいえ、まぐれ当たりで得た6位フィニッシュではないのだとアロンソは証明してみせたのだ。
「スタート直後のアクシデントでいくつか順位を上げたけど、その後のペースもすごく良かったし後方からの脅威はなかった。6位フィニッシュという結果に十分に値するレースができたと思う」
今季初入賞を果たし、それを追い風にしたいとアロンソは言う。
「僕らはどんどん進歩しているし、これから先もさらに進歩していく。これからは毎戦ポイントを獲っていくというのをターゲットにして良いだろうね」
(米家峰起/Text:Mineoki Yoneya)