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【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第8回】想定外の速さから得た自信と、ハースのレース哲学が見えたスペインGP

2020年8月27日

 2020年シーズンで5年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄エンジニリングディレクター。第6戦スペインGPでは金曜日から速さを発揮したハースだが、土曜日以降はその速さも影を潜め、入賞を目指して1ストップ作戦を敢行するも届かなかった。8月というイレギュラーな時期の開催となったスペインGPの現場の事情を、小松エンジニアがお届けします。


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2020年F1第6戦スペインGP
#8 ロマン・グロージャン 予選17番手/決勝19位
#20 ケビン・マグヌッセン 予選16番手/決勝15位


 2度目の3連戦の最後は、例年5月に行われているバルセロナ-カタロニア・サーキットでのスペインGPでした。スペインでは再び新型コロナウイルスの感染が広がっており、スペインからイギリスに入国する人には2週間の自己隔離が義務付けられていますが、僕たちF1関係者はその義務を免除されたので予定どおり移動することができました。


 さてスペインGPでは、金曜日のフリー走行1回目からロマンが6番手、ケビンが9番手、フリー走行2回目ではロマンが5番手と非常に速かったです。正直これほどの速さは期待していなかったので、僕も驚きました。これだけ速かった理由についてはほぼ明らかになりましたが、まだ100%というところまではきていません。


 金曜日は特にセクター3で速かったのですが、バルセロナのセクター3はストレートがなくてコーナーが3つにシケインがひとつというレイアウトなので、パワーユニット(PU)性能よりも車体の良し悪しがはっきりと出ます。普通に考えると僕らがグリップ不足で最も苦労するセクターのはずなのですが、この日のロマンはシャルル・ルクレール(フェラーリ)をコンマ1秒ほど上回るタイムを出してみせました。

ロマン・グロージャン(ハース)
2020年F1第6戦スペインGP ロマン・グロージャン(ハース)


 基本的にバルセロナには、モナコやハンガリーほどではないにしても、かなりダウンフォースをつけたクルマを持ち込みます。しかし今回の結果から言えることは、セクター3で速かった要因は必ずしもダウンフォースではないということです。ウチのクルマにフェラーリやレーシングポイントほどのダウンフォースがあるわけではないので、VF-20の良い特性を引き出せた結果だと思っています。


 ちなみにハンガロリンクのセクター3もほとんどストレートがなくてコーナーが3つと、似たようなレイアウトなのですが、ウチはハンガロリンクのセクター3では速くなかったので、ここにもヒントがあると思っています。


 実は金曜日の夜の時点であるレベルでの仮定を立てていたのですが、それが正しければ土曜日も速さを発揮できたはずでした。でも実際にはクルマが上手く機能せず、土曜日はタイムが伸びませんでした。


 この金曜日に速かった理由がはっきりとわかれば、反対に土曜日に遅かった理由もわかりますし、これから先に繋がります。金曜日の速さは想定外でしたが、このアップデートを入れていないクルマの仕様でもこれだけ速く走れるという自信にはなりました。

ケビン・マグヌッセン(ハース)
2020年F1第6戦スペインGP ケビン・マグヌッセン(ハース)

■入賞の可能性を掴むべく敢行した1ストップ作戦

 スペインGPは例年5月に開催されているので、8月にここでレースをしたのは僕も初めてです。路面温度が50度を超えるような状況でどうタイヤを使うか、リヤタイヤを壊さないようにするためにどうするか、ということに集中していました。


 シルバーストンではブリスターが相次ぎましたが、今回はそれよりも摩耗を懸念していました。そしてその懸念どおり、摩耗の点では厳しいレースでした。だから戦略が1ストップと2ストップで別れましたし、1ストップのドライバーたちは終盤きつかったと思います。


 バルセロナはコースレイアウトの特性上、オーバーテイクの難しいサーキットなので、できれば1ストップでいきたいところです。しかし摩耗があまりにもキツイので、トップ10で予選を通っていれば2ストップにしたと思います。


 ですが予選16番手と17番手から2ストップ作戦で行くと、入賞できる可能性はほぼありません。ですから賛否両論あるとは思いますが、ひとつかふたつポジションを上げて14位、15位で完走する作戦よりも、何かあればよりポイント獲得の可能性がある1ストップで行くことにしました。


 今回ケビンはソフトタイヤでスタートして、30周あたりまで走るつもりでいました。フリーエアーで走れているときのペースは悪くなかったのですが、エステバン・オコン(ルノー)とバトルをしているときはレーシングライン以外のところも走ったのでペースが崩れてしまい、28周目にミディアムタイヤに交換しました。


 第2スティントの序盤はアントニオ・ジョビナッツィ(アルファロメオ)に引っかかり、オーバーテイクしたのが40周目。このスティントで誰にも引っかからずに走れたら良かったのですが、やはり後方からのスタートとなるとなかなかそれもできません。終盤には2回目のピットストップでソフトタイヤを履いたライコネンに抜かれましたが、抜かれるべくして抜かれたという感じです。


 このふたりの争いを見れば、最善の戦略は2ストップだったことがわかります。入賞の可能性を掴むべく1ストップ作戦を採りましたが、残念ながら結果にはつながりませんでした。


 一方ロマンはミディアムでスタートしたので、なるべくソフトでのスティントを短くするしかポジションを上げるチャンスはないので、ラップタイムをロスしても長めに走らせました。ピットストップ後のフリーエアーでのタイムは良く、すぐに前のクルマに追いついたのですが、抜くには至らず順位を上げることができませんでした。

ケビン・マグヌッセン(ハース)
2020年F1第6戦スペインGP ケビン・マグヌッセン(ハース)

■カレンダーに新サーキット追加。シミュレータープログラムを再開へ

 フリー走行3回目の終盤にはケビンとオコンが接触しかける場面がありましたが、あの件は何があったのか明白ですし、ケビンが精神的に何か気にしているということもありません。


 ちなみにあの時、オコンは担当のエンジニアから「後ろから走ってくるマグヌッセンはアタック中だ」と伝えられていましたが、実際はケビンはアタックしていませんでした。オコンの車載カメラの映像を見ると、ケビンが速いスピードで走り去っていかないのでアタックしていないというのは明らかなのですが、無線を聞いたオコンは、アタック中のアルファタウリ・ホンダを気にしていてミラーを見ていたのでケビンがすぐ前にいることに気づくのが遅れてしまいました。本当に不運なアクシデントでした。


 ケビンもロマンも、そういったアクシデントやペナルティ、警告によって特に自信を失うということはないです。それよりも、今いちばんの問題はやはりクルマです。今回で言えば、金曜日と土曜日でクルマの挙動が変わってしまい、金曜日に積み上げたものを土曜日に発揮することができませんでした。そうなるとドライバーも不安になりますし、自信を持てません。常に安定した車をドライバーに与えられていないという点はチーム側の課題です。

ケビン・マグヌッセン(ハース)
2020年F1第6戦スペインGP ケビン・マグヌッセン(ハース)


 次の3連戦では、新たにムジェロがカレンダーに加わりました。ロマンはF3に参戦していた時代にムジェロで走ったことがありますが、ケビンは走った経験がないので、ベルギーGPに行く前にシミュレーターで走ることになっています。


 実は今年、新型コロナウイルスの影響でファクトリーをシャットダウンした際、財政的に厳しい状況だったのでシミュレーターの開発プログラムを一度止めなければいけませんでした。本当はオーストリアに行く前にもシミュレーターを使いたかったのですが、その時もできなかったので、シーズンが再開してからはまだ1回も使っていないんです。


 ムジェロ以外にもニュルブルクリンク(アイフェルGP)、ポルティマオ(ポルトガルGP)やイモラ(エミリア・ロマーニャGP)が加わったので、新しいサーキットでのレースに向けて通常とは少し違った準備が必要になります。そのため、新サーキット用のプログラムを組んで、まずはやらなければならない最低限のレベルでシミュレータープログラムを再開することになりました。


 フルで再開しないのは、今やっていることでいっぱいいっぱいだからです。ファクトリーで働いているスタッフにもレース前の準備や、レースの週末中、そしてレース後のデータ解析をしてもらっているので、そこにシミュレーターのプログラムが加わると何かを削る必要が出てきます。そうでないと、シミュレータープログラムができなかった間に進めていた普段のプログラムが滞ってしまうので、常にチームのスタッフの人数、キャパシティ、リソースを見ながら準備をしています。
 





レース

4/19(金) フリー走行 結果 / レポート
スプリント予選 結果 / レポート
4/20(土) スプリント 結果 / レポート
予選 結果 / レポート
4/21(日) 決勝 結果 / レポート


ドライバーズランキング

※中国GP終了時点
1位マックス・フェルスタッペン110
2位セルジオ・ペレス85
3位シャルル・ルクレール76
4位カルロス・サインツ69
5位ランド・ノリス58
6位オスカー・ピアストリ38
7位ジョージ・ラッセル33
8位フェルナンド・アロンソ31
9位ルイス・ハミルトン19
10位ランス・ストロール9

チームランキング

※中国GP終了時点
1位オラクル・レッドブル・レーシング195
2位スクーデリア・フェラーリ151
3位マクラーレン・フォーミュラ1チーム96
4位メルセデス-AMG・ペトロナス・フォーミュラ1チーム52
5位アストンマーティン・アラムコ・フォーミュラ1チーム40
6位ビザ・キャッシュアップRB F1チーム7
7位マネーグラム・ハースF1チーム5
8位ウイリアムズ・レーシング0
9位BWTアルピーヌF1チーム0
10位ステークF1チーム・キック・ザウバー0

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