フェルスタッペンらしい瞬間の判断が冴えたのは、スタート直後のターン3。いったんは先行したセバスチャン・ベッテルがダニエル・リカルドの真後ろでダウンフォースを失っている様子を目にすると、迷わずアウト側のラインから前に出た。唯一の小さなミスは、24周目のターン3、リカルドの後ろでアウトにふくらんだこと──それ以外は、ライコネンに迫られても前輪をロックさせることすらなかった。
トロロッソは、タイヤ管理の難しいマシンだった。それでも昨年レースデビュー前のフェルスタッペンが初めて2015年仕様のSTRで走ったレースシミュレーションを、テクニカルディレクターのジェームス・キーは鮮明に覚えている。
「タイヤのコントロールだとか、タイヤ温度がどれくらいか計るための“アイデアをキャッチする能力”だとか、本当に印象的だった。あれは、マックスが計り知れないポテンシャルを備えているという事実を示すテストだった」
フェルスタッペン自身にとっても「信じられない」初勝利。レースを驚きの展開に導いた最大の要素はもちろん、メルセデス2台の接触によるリタイア。その後の流れを考えると、スタート直後いったんはベッテルに先行されながら、ターン3で取り戻してリカルドの後ろの2位を走行していたことも本当に大きい。
序盤にベッテルを抜き返したことが、初勝利への布石となった
LAT
そして──ダニエル・リカルドに関するかぎり、レッドブルが完全に作戦に失敗したことが鍵になった。スタート直後も、全員が最初のピットストップを終えた時点でも、1位と2位のポジションを占めていたレッドブルが1位と4位に終わったのだから、チームの作戦として、本当は“失敗”なのだ。
28周目、首位を走行していたリカルドをピットインさせたことについて、クリスチャン・ホーナーは「フェラーリの速さを相手に、2ストップか3ストップどちらが正解かわからない状態では、2台の作戦を分けるという難しい決断が必要だった」と説明している。しかし、フェラーリをカバーするために1台を先にピットに入れるなら、首位リカルドではなく2位フェルスタッペンを呼ぶのが基本。それではベッテル/フェラーリが反応しなかったかもしれないが、その場合にはリカルドは安全に2ストップ作戦を遂行することができた。なぜトップを走っていた自分がリスキーな3ストップ作戦に導かれたのか、リカルドが納得できないのも当然だ。レッドブルの不鮮明さは、その点を説明していないことにある。
リカルドが2回目のタイヤ交換を行う少し前、23周目から25周目までにフェルスタッペンとの間隔は1.2秒から0.8秒まで、4番手ライコネンまでの間隔も6.3秒から5.2秒まで縮まった。しかし、これはリカルドのタイヤ性能が落ちていたからではなく、トップグループの目の前にピットアウトしてきたリオ・ハリアントが行く手を阻んだため──ダウンフォースが効かないぶん、マノーのストレート速度は驚異的に速いのだ。
65周目のパンクチャ―がなければ「ダニエルは表彰台に上がれたはず」とホーナーは“不運”を理由にするが、それよりずっと前、チームの作戦ミスによって「自分たちで勝利を放棄してしまった」リカルドの気持ちを尊重しなければならないはず──2台のうち1台の作戦に失敗した場合、メルセデスなら“ビター・スイート”と表現しただろう。