レース序盤、ロズベルグはボッタスに抑えられる形で走行していました。しかし、ボッタスは8周目以降デグラデーション(タイヤの性能劣化によるペースへの影響)の兆候が見え、徐々にペースを落としていきます。そして11周目にピットイン。本来ならばロズベルグは、これに合わせるように自らもすぐ翌周にピットインするはずです。しかし、今回のロズベルグはそうしませんでした。彼はタイヤを交換しなくとも、タイヤを変えたボッタスより速いペースで周回できたからです。そのためロズベルグは、ピットインを遅らせてボッタスとの差を詰め、そしてコースに復帰した次の周にオーバーテイク。これまで、ロズベルグには“オーバーテイクが苦手”というイメージがありましたが、今回は一発でズバリとボッタスを捉えてみせました。
ボッタスを抜いたロズベルグ。次の標的は、2番手を走行するベッテルです。ロズベルグはこのベッテルに対し、“オーバーカット”とは逆の“アンダーカット”作戦を実行し、成功させました。ロズベルグは最初のタイヤ交換を行った後、ベッテルの背後に付く形で走行を重ねます。しかし、鈴鹿サーキットは非常に抜きにくいコース。今回のメルセデスAMGは最高速に秀でていましたが、それでも、フェラーリを抜くのは簡単ではありません。ベッテルを抜けないロズベルグは、ベッテルよりも早く29周目にピットインし、新しいタイヤを装着して、他車に邪魔されずに速いペースで走ることを選択します。これが“アンダーカット”です。タイヤを換え、コースに復帰したロズベルグは、力の限り飛ばします。そして、このレースの自身最速タイムを記録(それでも、ハミルトンが記録した最速タイムよりも1秒遅いラップタイムでしたが……)。ベッテルはロズベルグの翌周にピットに入りますが、時すでに遅し……。ピットレーンを出たところ、ロズベルグがその横を駆け抜けていき、ポジションを奪われてしまいました。その後のロズベルグは、ベッテルのペースを注視し、ペースを抑えてタイヤを労りながら、チェッカーを目指すだけでよかった。これで、メルセデスAMGの1-2体制が築き上げられたのです。
前回のシンガポールGPで、ベッテルは神業とも言えるような絶妙なペースコントロールを見せ、圧勝してみせました。今回のハミルトンも、それに勝るとも劣らない、素晴らしいレースの組み立てだったということができましょう。そしてロズベルグも、ハミルトンには完敗したとはいえ、しっかりと作戦を遂行して2位を確保することに成功しています。シンガポールでは大失速を喫したメルセデスAMGですが、ここ鈴鹿で完全に息を吹き返したと申し上げて、差し支えないでしょう。残り5戦、そのいずれのサーキットでも、彼らがレースを制圧する可能性が高いと言えると思います。