メルセデスとフェラーリの違いは、フェラーリがトラックポジションを優先したのに対して、メルセデスがオーバーテイクを“可能”と捉えていたこと。これまでと違って、ロングランでも勝負できるという自信が、メルセデスのストラテジストの視野を広げた。
34周目。フェリペ・マッサと接触したストフェル・バンドーンがターン1のグラベルに止まり、バーチャルセーフティカー(VSC)が導入された。ミディアムの第3スティントを最小限に抑えたいベッテルはステイアウト。残り周回が30周近くあることを考えると、ハミルトンもすぐにはピットに入れなかった。
しかしメルセデスのストラテジストの頭脳が最高に光ったのは、この、VSCのシーン。いったんはタイヤを用意したメカニックたちが、ガレージに戻った。そして36周目、VSCが終了するタイミングで、ふたたびピット前にタイヤを用意した。VSC ENDINGが標示されたのは、ハミルトンがピットロードに入る直前──彼らは、このタイミングを待っていたのだ。
ハミルトンのピット作業が行われている間、首位ベッテルはVSCに抑えられたままのペースで走らなければならなかった。次の周回、ベッテルがピットインした際には、VSCはすでに解除されてグリーンランプが灯っていた。7〜8秒あったフェラーリとの間隔をメルセデスが埋めた“マジック”はここにある。
ピットアウトしたベッテルとコース上のハミルトンがターン1に到達したのはほぼ同時。ベッテルがイン側で踏ん張り、サイド・バイ・サイドで並んだ2台は軽く接触し、ハミルトンはコース外に追いやられてしまう。その後、周回遅れのマシンを利用してDRSで身を守っていたベッテルだが……前に誰もいない状態になると抵抗する術もなく、メインストレートであっさりハミルトンに抜かれてしまった。
ベッテルとの激しい戦いを制したハミルトンは「2kgは体重が減ったと思う」と疲労困憊しながらも、満面の笑顔。「負けたんだから満足なわけがない。ルイスに勝たせたくなかった」と言いながら、ハミルトンを讃えるベッテルは正直なスポーツマン。戦い終わったドライバー全員に熱い拍手を送るバルセロナのファンも、素晴らしいレースを支えたグランプリの主役。