2ストップ作戦を目指してハミルトンの第2スティントにミディアムを投入したメルセデスは、ソフト同様に性能低下する様子を見て、3ストップ作戦に切り換えた。ルイスのマシンは破損していたとはいえ、メルセデスが同じミディアムをロズベルグの第3スティントに選ぶことは可能だっただろうか。そこでライコネンがミディアムを選択し、ニコがソフトを履いたなら、メルセデスはフェラーリがゴールまで走ることを警戒して、リードを広げなければならなかったはず──。フェラーリ、とりわけライコネンの強みは、条件がそろったときに驚くほどタイヤの耐久性を引き出せること。この切り札は、メルセデスにはない。金曜日のフリー走行2回目では苦手なミディアムを克服すべく、見事なペースで20周のロングランを行っていたのだから、路面コンディションも温度も改善されたレースでトライすることも選択肢だった。レースに“タラレバ”を持ち込むのは無意味であるけれど、フェラーリには「もっと足掻いてほしい」と思わせるだけの速さが備わっていた。
フェラーリの敗因はライコネンのスタート失敗だけにあるのではない。ベッテルがいれば打倒メルセデスで攻めたはずなのに、ライコネンひとりになると、ロズベルグを攻めるよりもハミルトンに対して守る思考が戦略を決めてしまった。クールに見えて、ここでは毎年のように表彰台に上がるキミが、今度こそはとバーレーンの勝利を狙っていなかったわけはない。トライして失敗しても、挑戦者フェラーリに失うものはなかったはずだ。
優勝したニコ・ロズベルグは、もちろん主役。そこに役者たちの殊勲が加わってバーレーンGPを質の高いレースにした。快進撃が続くグロージャン、2戦連続4位のリカルド、不運の連鎖を断ち切ったクビアト、10位スタートからトロロッソにバーレーン初ポイントをもたらしたマックス・フェルスタッペン、マクラーレン・ホンダのシーズン初ポイントを飾った代役のバンドーン(とコーチのようにストフェルに付き添ったフェルナンド・アロンソ)。
見過ごしてはならないのは、完走した全ドライバーが首位から1周以上遅れずにゴールしたこと。終盤のマーカス・エリクソンvsパスカル・ウェーレーンのバトルはポイント圏外でも、守るザウバーと攻める新生マノーにとってはコンストラクターズ選手権順位を左右するかもしれない重要な戦いだった。ブルーフラッグと戦ってきたチームが、ライバルと戦う健全なレースは、みんなの胸を熱くしたはず……。
予選をはじめ、さまざまな問題は残るけれど、論争は「くだらないこと」として表舞台から引き下げ、コース上に集中するのが賢明かもしれない。今年のレースは、とてもコンペティティブで面白い。
(今宮雅子/Text:Masako Imamiya)