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【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第5回】スタート前のタイヤ交換が奏功。罰則覚悟も「やるしかないと思った」

2020年7月30日

 2020年シーズンで5年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄エンジニリングディレクター。第3戦ハンガリーGPでは、スタート前にタイヤ交換を行うという戦略をとったが、それが功を奏して今シーズン初入賞を掴み取った。あの判断はどのような意図のもとで行われたのか。そしてなぜレース後にペナルティが科されたのか。小松エンジニアが現場の事情をお届けします。


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2020年F1第3戦ハンガリーGP
#8 ロマン・グロージャン 予選18番手/決勝16位
#20 ケビン・マグヌッセン 予選16番手/決勝10位


 ハンガリーGPではケビンが10位に入賞し、チームとしても2020年シーズン初入賞となりました。ブレーキトラブルでリタイアした第1戦でもレースペースは去年より良いという感触はあったのですが、今回のレースでそれを証明できてよかったです。


 決勝レースでは、スタート前のフォーメーションラップを終えた段階でロマンとケビンをピットに入れて、それぞれインターミディエイトタイヤとウエットタイヤからミディアムタイヤに交換するという戦略をとりました。この戦略について、順を追って説明したいと思います。


 スタート30分前の時点で、路面状況としてはインターミディエイトタイヤを履くのが最適だったのですが、ケビンはインターミディエイトとフルウエットタイヤの両方を試した結果、どうしてもインターミディエイトに自信が持てなくフルウエットで行きたいと主張しました。


「この状態でフルウェットだと1周で終わりだと思うよ」と伝えましたが、それでも彼は「インターの感触が良くない」と不安な様子でした。そこまで自信を持てないインターミディエイトを無理に履かせてスタートで何か大きな失敗をしても後に響くので、彼の意向を汲んでフルウエットでのスタートを決めました。


 ところがフォーメーションラップの1コーナーの時点で、ケビンから「ドライラインが見えてきているから、完全に間違ったタイヤを履いた」と無線が入りました。僕はこの時点でフォーメーションラップ後にタイヤを変えるかどうかを考え始めたのですが、ファクトリーからレースをサポートしているストラテジストも「スタート前にピットに入れたほうがいいんじゃないか」と言ったのです。


 その後8コーナーを通過したロマンも「かなり早い段階でドライタイヤに交換できそうだ」とコメント。ロマンはインターミディエイトからドライに履き替えるような局面だとかなり慎重なタイプなのですが、そのロマンがこのように判断したということで、僕もドライでいけそうだなと思いました。


 ピットウォールで無線を聞きつつオンボード映像を見ながら、後ろを振り返ってガレージの様子を確認したのですが、まだメカニックがいない空の状態。ウチは予選順位が16番手、18番手とグリッド後方だったので、メカニックたちはまだ遠くから走ってガレージに戻っているところでした。スタート前にタイヤを変えると決めても、メカニックが間に合うかどうかわからなかったのですが、やるしかないと思い、「2台ともドライに変える」と伝えました。


 本来ならば、インターミディエイトからドライタイヤに変えるときは一番柔らかいタイヤを履くのですが、フリー走行1回目にソフトタイヤを履いたほかのドライバーたちのパフォーマンスが良くなくて、フリー走行3回目に自分たちも良い感触を得られなかったので、最初からレースではミディアムを履くと決めていました。


 そもそもどうしてフォーメーションラップ後にタイヤ交換をしたのかというと、たとえドライタイヤで1周目、2周目にインターミディエイトを履いているドライバーたちより1周5秒遅くてトータルで10秒ロスしたとしても、レース中のピットストップでは約20秒のロスがあるので、先にタイヤ交換を済ませると単純に計算しても10秒の得になります。ピットレーンからスタートするというハンディもありますが、それを含めても僕たちのグリッドポジションを考えれば失うモノより得るモノの方が断然大きいんです。


 結局、想像以上にドライタイヤのペースが良かったので、毎周5秒もロスをすることはありませんでした。一時3番手と4番手を走行しましたが、あのような状況でトラフィックにはまらないで自分のペースで走れるというのは、なかなかできることはではありません。


 ケビンがランス・ストロール(レーシングポイント)に追いつかれた時は、すぐに抜かれるかと思ったのですが、ポジションを守るような走りをしていたわけではなかったのに、かなり長いこと抜かれずに走ることができたのも収穫です。

ケビン・マグヌッセン(ハース)
2020年F1第3戦ハンガリーGP ケビン・マグヌッセン(ハース)


 この時のレースペースがなかなか良かったのですが、これは去年のクルマの反省点が今年のクルマに活かされているからです。前述の通り第1戦は2台ともリタイアでしたが、実はケビンがレース後にわざわざピットウォールにいる僕のところに来て、「今年のクルマはレースでプッシュできるから楽しい」と20分以上も座って話してくれました。バルセロナテストで手応えをつかんではいても、やはり実際にレースコンディションで走るまでは不安だったようです。


 今回のレースでは第1スティントはもちろん、タイヤの差があったとはいえ第2スティントでシャルル・ルクレール(フェラーリ)を徐々に引き離していったときもミスなくラップタイムを刻むことができていましたし、カルロス・サインツJr.(マクラーレン)がルクレールを抜いた後は毎週1秒以上縮められていたけれど、ケビンは焦ることなく走っていました。


 ロマンもアレクサンダー・アルボン(レッドブル・ホンダ)と接触するまでは良いペースで走っていました。アルボンは少し強引でしたが、ロマンはアルボンとレースをしているわけではないので接触は避けてほしかったです。あの接触でかなりダメージを負ったので、ペースを保てなくなり順位を落としてしまいました。あれがなければ、ケビンのすぐ後ろでフィニッシュして、ダブル入賞の可能性もあったのでもったいないですよね。

アレクサンダー・アルボン(レッドブル・ホンダ)&ロマン・グロージャン(ハース)
2020年F1第3戦ハンガリーGP アレクサンダー・アルボン(レッドブル・ホンダ)&ロマン・グロージャン(ハース)

■「あの判断ができなかったら、エンジニアを引退しようと思うくらいです」

 フォーメーションラップ後にピットストップを行うことについては、ペナルティを科されるかもしれないと一瞬考えましたが、本当にに科されるとは思っていませんでした。実際レース中には何のお咎めもなかったのですが、レースが終わってから数時間後にスチュワードから呼び出しを受けました。というのも、アルファタウリがスチュワードに僕らの無線交信が規則違反ではないかと指摘したからです。


 正式な抗議ではないのですが、彼らの指摘は、今回のウチの行動が『フォーメンションラップでは、クルマの問題についてしかドライバーと無線で話してはいけない。もし話した場合はピットインしなければいけない』という2017年に発行された規則に違反しているのではないかという内容でした。


 FIAに呼ばれて話をしに行ったところ、なんとスチュワードは「この規則を知らなかった」と。情けないですよね……。F1ではスポーティングレギュレーションという毎年正式に発効される規則に加え、テクニカルディレクティブ(TD)というFIAから出される様々な規則があります。この大半はレギュレーションに組み込まれておらず、このTDの意図・背景を理解していないと正しい判断はできないという何とも曖昧な面があります。


 今回のレーススチュワードには元F1ドライバーのデレック・ワーウィックがいたのですが、彼の説明も支離滅裂で、いくら話しても水掛け論にしかなりません。レース中、ドライバーは「他の誰とも話さずに自分だけでタイヤの判断をしなければいけない」なんて言ってましたし、挙句の果てには「もうこの(議論の)場に居たくない」とまで言いだす始末でした。ホントに世界選手権に関わっているという自覚も無ければ責任感もないのでしょうね。


 最終的にはペナルティを受けることになりましたが、レース後にはルノー時代の元同僚や、フェラーリ、マクラーレンの知り合いから「ピットインはいい判断だったね、よくやった!」と言われました。僕としては、こういうことをするのがレースであり、レースの“コア”の部分だと考えています。いろいろな情報を瞬時に整理して、自分たちの置かれた状況で最適と思われる判断を下す。決して単なるギャンブルではありません。

ケビン・マグヌッセン&ロマン・グロージャン(ハース)
2020年F1第3戦ハンガリーGP ケビン・マグヌッセン&ロマン・グロージャン(ハース)


 僕たちは他のチームと同じことをしても、勝てないどころかポイントも獲れません。後から振り返っても、もしあのタイミングでタイヤ交換の指示を出せていなかったら、もうトラックサイドでのエンジニアを引退しようと思うくらいです。ペナルティには納得できませんが、後悔はしていません。それに、あの状況で入賞できたというのはとてもポジティブなことです。


 次戦はイギリスでの2連戦ですが、舞台となるシルバーストンは、昔は有名な高速サーキットでしたが、近年のF1では全開で走れるコーナーが増え、高速サーキットというよりは全開区間の多いよりスパ・フランコルシャンに近いようなサーキット特性になってきているので、ハンガリーよりもウチには厳しいと思います。そういう意味では、ハンガリーでのレースはウチにとってはより重要だったんです。


 シルバーストンではパワーユニット(PU)のパワー不足もより顕著になりますし、ドライコンディションの場合は、かなりダウンフォースを削ってでも抵抗を減らさないとタイムも出ないし、レースでも勝負ができません。もちろんダウンフォースを削るほど中低速コーナーが厳しくなってきますが、そこをどう対処するかですね。とにかく、今はひとつでも上のポジションを目指してベストを尽くします!

ロマン・グロージャン&小松礼雄エンジニア(ハース)
2020年F1第3戦ハンガリーGP ロマン・グロージャン&小松礼雄エンジニア(ハース)



(Ayao Komatsu)




レース

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フリー走行2回目 結果 / レポート
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5位ランド・ノリス38
6位アレクサンダー・アルボン36
7位ランド・ノリス28
8位セルジオ・ペレス22
9位ダニエル・リカルド20
10位エステバン・オコン16

チームランキング

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2位レッドブル・ホンダ113
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4位マクラーレン53
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6位ルノー36
7位アルファタウリ・ホンダ14
8位アルファロメオ2
9位ハース1
10位ウイリアムズ0
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