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中止の決断を下せなかった3つの主催者団体。要請で助け舟を出したメルセデス/海外ライターコラム

2020年3月28日

 誰もがF1オーストラリアGPは開催できないことを理解し、ようやく行動を開始したのは、チームの会合が終わった木曜の深夜になってからだ。しかし、FOG(フォーミュラ・ワン・グループ)、FIA、AGPC(オーストラリアGPコーポレーション)の三者は、何とかオーストラリアGP中止の責任を負わされるのを避けようとチキンレースを続けた。


 オーストラリアGPの公式な大会主催者はAGPCだ。しかし、彼らは公的資金による支援を受けているため、実際に費用を負担するビクトリア州政府の意向に従わざるをえず、AGPCの幹部は州政府と絶えず連絡を取り合っていた。


 もし彼らがイベントの中止を決めれば、開催権料は戻ってこない可能性が高く、それに加えてチケットの払い戻しも必要になって、多くの訴訟が起こされるかもしれない。また、このイベントへの公共投資は、毎年レース開催に反対する人々に対する“政治的武器”としても使われており、それらをすべて失うことは現地の関係者にとって大打撃になる恐れがあった。


 一方、FOGもこれと似たような立場に立たされていた。彼らのほうからキャンセルを言い出せば、開催権料は返金を余儀なくされ、訴訟に直面するリスクもあることから、アメリカ人たちも態度を明確にしなかったのだ。


 そして、FIAはどうしていたかと言えば、彼らはずっと傍観者のように口をつぐんでいた。FIAが主導してイベントを中止させれば、AGPC、FOG、チケット購入者が一斉に裁判を起こすかもしれないからだ。こうしてこの三者は、自分が最初に動いた者になるのを恐れて牽制しあう、いわゆる“メキシカン・スタンドオフ”(注:至近距離で互いに銃を向けあい、誰も動きが取れない膠着状態)に陥っていた。


 夜を徹しての話し合いでも合意には至らず、翌朝7時に会議が再開されたところで、まず州政府が先手を打った。午後に予定されていた2人乗りF1カーの同乗走行に向け、ゾルト・バウムガルトナーとパトリック・フリーザッハーが練習走行を始めるなか、AGPCは州政府の同意を得た上で、F1を除いた週末の全プログラムを中止すると発表した。


 つまり、V8スーパーカー、アジアンTCR、ヒストリックカーのデモ走行とレースは、その他の催しと併せてすべてキャンセルされ、F1についてはFOGとFIAの判断に任せるという形を取ったのだ。

■動かない主催者陣にメルセデスが“中止要請”で助け舟

 そして、この動きに何の反応もなかったことから、今度はオーストラリアの公衆衛生当局が追い打ちをかけた。フリー走行1の開始が3時間後に迫った9時に、観客のサーキットへの入場を認めず、F1イベントは無観客で行うよう命じたのである。結果として、9時の開門を待っていた観客は、その時刻になって急に入場できないことを告げられ、オンラインでの払い戻し方法を案内されることになった。


 サポートプログラムもなく、観客もいない。F1が当然やるべきことをやるために、これ以上何が必要だろうか。パドックでは、メルセデス、フェラーリ、マクラーレン、ルノーの4チームがガレージを閉め、撤収とパッキングに必要な一部の人々だけを現場に残して、他のスタッフはホテルで待機させていた。


 しかし、他の6チームは依然として当初のスケジュールを守り、レーシングポイントに至っては9時半にピットストップの練習まで行っている。最低12台がレースに出走すれば、オーストラリアの主催者は開催権料の支払いを免れることはできない。レギュレーションにより、それだけの台数がそろえば選手権ポイントが付与され、世界選手権イベントとして成立するからだ。


 そして、ガレージに残っているアルファロメオに加えて、レース開催を望んでいた3チームと採決を棄権した2チームがクルマを走らせれば、その最低台数は満たされる。しかし、パドックにドライバーたちの姿はなく、彼らが準備を続けているのはブラフにすぎないことは、誰の目にも明らかだった。


 ここに至ってFIAは、ようやく彼らがイニシアチブを取るしかないことを理解したが、それでもなお法的な責任を逃れるために協力者を求め、メルセデスがその役を買って出た。メルセデスが不可抗力を理由に、イベントの中止をFIAに“要請”する書簡を送ったのである。


 この書状には、「コロナウイルスの流行に関連して、現在私たちが直面している不可抗力事象を考慮すると、イベントへの参加を継続した場合、もはや自信を持ってチームメンバーの安全性を保証することができない」と記されていた。


 こうして、責任回避に必要な文書を手にしたFIAは、この書簡を受け取った10時5分のわずか2分後(!)に、オーストラリアGPを正式にキャンセルした。残されたのは開催権料をどうするかについての交渉だが、三者ともに中止の法的責任を単独では負わないことを考えると、話は簡単にはまとまらないだろう。


 そして、ベトナム・ハノイを訪れていたFOGのチェイス・キャリーCEOがパドックに到着したのは、FIAが最終決定を下してから25分後の10時32分のことで、もう彼が関与できるのは開催権料の交渉だけになっていた……。


 新型コロナの流行が、遅かれ早かれF1にも影響をおよぼす兆しはいくつもあった。にもかかわらず、拝金主義とリーダーシップの欠如が、関係者全員をオーストラリアへ向けて出発させ、空港と飛行機のなかでウイルスに感染するリスクにさらしたのだ。


 真のリーダーは、自分が持っている情報だけに頼らず、より広い世界にも目を向けて行動する。目先の出来事に右往左往し、絶えず立場を変えるのはリーダーシップとビジョンが欠けている証拠に他ならない。オーストラリアGPの前週から、アルバート・パークのパドックでさまざまなことが起きている間に、FOGとFIAが見せた態度がまさにそれだった。


 キャリーは「金がすべてを支配するのなら、このイベントは中止しなかっただろう」と述べたが、やはりルイス・ハミルトンの指摘は正しかったと言わざるをえない。結局のところ、キャンセルまでのプロセスを必要以上に長引かせ、判断を遅らせたのは、拝金主義以外のものではなかったからだ。


 いわば、私たちは金に目が眩んだ盲人であり、盲人が盲人を導けば、みんなそろって穴に落ちるのは当然のことだった……。




(Text:Luis Vasconcelos)




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