フロントロウを独占したフェラーリに、奇をてらうような作戦は必要なかった。スタートも順調、第1スティントはセーフティカー出動もなくスムーズに進んだ。トップはライコネン、2位ベッテル――。
ただし「スタートでどうやったら前に出られるか、一晩中、夢を見ていた」というベッテルが、ゴールまでおとなしく2番手を走行するはずはなかった。
3番手のボッタスを抜きあぐねたマックス・フェルスタッペンが、アンダーカットを狙ってピットインしたのは32周目。レッドブルをカバーしようとボッタスがタイヤ交換に入ったのは33周目。後ろの2台の動きが引き金となって、フェラーリは34周目にライコネンをピットインさせた。
モナコのようにオーバーテイクが難しいコースでは、前を走っているかぎり後続のピットインを見届けてから動くのが鉄則。しかし第1スティント後半の問題は、ライコネンのペースが上がらず、ときには後続の10台ほどがフェラーリの2台を上まわるタイムで走行していたことだ。
「僕もキミも、リヤが滑り始めて苦労していたと思う。その間にバルテリが僕らに近づいてきた」
いったんは7秒近くまで開いていたボッタスとの間隔が、3秒まで縮まっていたのだ。したがって、ボッタスをカバーするためにフェラーリが動いたのも自然なことだった。
なぜ、ボッタスの前にいたベッテルではなく、首位のライコネンを最初にピットインさせたのか──フェラーリがベッテルを勝たせるために操作したと勘ぐることもできるかもしれないが、これまでの(メルセデスほど緻密ではない)フェラーリの作戦を見れば、彼らが複雑な計算をしたとは思えない。
ベッテルが言う「前のマシンが先にピットインする権利を持っている」「僕らは接近して走行していたから、僕がステイアウトするしかなかった。1周か2周、タイヤが保っていればもっと長く」というのは、きっと嘘ではない。そのステイアウトが、ベッテル自身が想像した以上のペースをもたらした。
ライコネンのピットインによって前が開けたベッテルは、1分17秒台から16秒台、そして15秒台へとペースを上げた。
「とにかく、バルテリに抜かれないことを考えていた。バルテリはたしか16秒1、古いタイヤで走っていたダニエル(リカルド)は少し速くて16秒0、僕はその時点で16秒4だったと思う」
これはベッテルの思い違いで、ピットイン後のボッタスはライコネン以上に周回遅れに阻まれて、1分17〜18秒台で走行していた。
「でも、古いタイヤであんなに速く走れるとは思わなかった」
これは本当。ステイアウトしたベッテルは、リカルドとともにファステストラップを更新し続けた。結果、39周目にピットインしたベッテルは十分な余裕を持ってライコネンの前、首位でコースに戻ることになった。