結果的に、バーチャル・セーフティカー解除の直後にセーフティカーが出動してステイアウト組にフリーピットをもたらしたが、メルセデスらしさが表れたのは“ドライになるまで6周かかる”というピット側の予想をドライバーにきちんと伝えていた点。最終的にはドライバー判断が重要な路面状況でも、ドライバーに役立つ情報を整然と伝える落ち着きが大切なのだ。
ドライタイヤに交換した後の第2スティントでも、ハミルトンとチームの交信は明晰だった。チームは常に、ハミルトンにタイヤの状況を訊ねる。ドライバーが「このタイヤで最後まで走るの?」と訊けば、その可能性を認めつつ「作戦はフレキシブルだよ」と念を押す。
印象的なのは、端的な対話のなかでドライバーの意志、エンジニアの意志が明確に示されていたことだ。彼らの交信に「Why?」は登場しない。
34周目、2番手のベッテルがピットインしたことによって、ハミルトンはリスクを抱えず2度目のタイヤ交換に入ることが可能になった。ステイアウトしていたキミ・ライコネンは24秒後方。あと2周でライコネンをクリアできると伝えたチームに、ハミルトンは完璧に応えた──。丁寧に、しかしそれまでより少し速いペースで2ラップを重ねてトップでコースに戻るための十分なマージンを築いたのだ。
第3スティントでベッテルが追い上げてきた際にも、お手本のようなレースマネージメントは続いた。
「毎ラップ、僕はセバスチャンのペースを伝えてもらうことが必要だった。最後の20周ほどは、タイム的に本当に拮抗していたと思う。残り10周では彼のタイムに対抗できないこともあったね。レース中の他の段階では僕の方が速いこともあったけど」
何よりも、他チームのライバルと競えることが嬉しいとハミルトンは言った。今年のマシンは戦ってよし、乗ってよし──。F1らしいダウンフォース、タイヤのグリップを楽しめたことも、レース後の笑顔の要因。ドライバーに“スポーツ”が戻ってきたのだ。
完璧に秩序だったメルセデスに比べると、行き当たりばったりな印象を与えてしまうのがフェラーリのピット。昨年、そんなチームの“キャラクター”に苦労したベッテルは、自らが主導権を握ってチームに方向を示していくことに解決法を見出した。みんながみんな、メルセデスのように統制された“作戦網”を布いているわけではないのだ。フェルナンド・アロンソだってピットに情報は求めても“指示”は仰がない。
だからこそ、セーフティカーの不運で6番手までポジションを落とした後、20周目のターン6でインからライコネンを、22周目のターン6でアウトからダニエル・リカルドを、そして28周目のヘアピンでマックス・フェルスタッペンのミスを捉え、失ったポジションを取り戻した満足感は大きい。