シンガポールの不振を払拭したメルセデスは、鈴鹿でフロントロウを取り戻した。「大好きなコースなのに毎年苦労してきた」鈴鹿で、ルイス・ハミルトンは今年もポールポジションを手に入れることができなかった。それでも彼が強いのは、絶対的な自信が頭を冴え渡らせているからだ。
土曜夜から日曜朝の雨によって再びラバーが流された路面。スタートの瞬間、2番手グリッドでも十分なグリップを得られるとわかると、アウト側のニコ・ロズベルグを牽制することなく、まっすぐなラインで加速することを優先した。イン側で1コーナーに入るラインは不利でも、ロズベルグの真横のポジションを維持することによってチームメイトから自由を奪った。そして2コーナーの出口では、まるでロズベルグがいないかのように、容赦なくアウトいっぱいまでコースを使った。接触を避けるため、グリーンにタイヤを落としたニコは4番手まで後退し、ふたりの勝負はS字に入る前に決着がついた。
ロズベルグの反応はスマートであったけれど、ここまでハミルトンが攻撃してくることを予測できなかったのは敗因。チームメイトと勝利を争うのではなく、バルテリ・ボッタスやセバスチャン・ベッテルからポジションを取り戻すための戦いになってしまった。
それでもボッタスのピットインに誘われることなく、4周長くステイアウトし、第2スティントのフレッシュタイヤでコース上のオーバーテイクに挑んだ作戦は見事。29周目にはタイヤに十分な余力を残した状態でピットインし、ベッテルをアンダーカットすることにも成功した。
もしも1周早くピットインしていたら……と、ベッテルは悔やんだが、ロズベルグが正確にフェラーリの2秒後方を走り続けたのはタイヤを守るため、そして「アンダーカットはさせない」とフェラーリに思い込ませるため。ハードタイヤを履いたアウトラップはロズベルグのほうが2秒速く、2台が同時にピットインしたとしてもアウトラップのシケイン入口でロズベルグがベッテルを捉えた可能性が高い。シンガポールのフェラーリがそうであったように、マシンが好調でタイヤ管理にも優れていれば、多彩な作戦が可能になる。
フォース・インディア対ロータスの勝負では、ニコ・ヒュルケンベルグが10周目のピットインで、ロータスの2台をアンダーカットすることに成功した。勝因はアウトラップの速さ──高いタイヤ内圧によるロータスの悩みは、ロマン・グロージャンもパストール・マルドナドも、ヒュルケンベルグより3秒遅いアウトラップを走っている点にも表れている。それでもロータスは7位と8位で完走したことによって、ヒュルケンベルグには負けても、フォース・インディアに勝った。マシンの到着が遅れ、ホスピタリティ設備も使えない苦しい状況のなか、明るさを失わずに鈴鹿の週末を戦い抜いたチームの精神に、鈴鹿のファンは大きな拍手を送った。
日本GPの翌日、ルノーはロータス・チーム買収の基本合意書を交わしたことを発表した。正式に買収が成立するまでには調整が必要だが、カルロス・ゴーンがワークスチームでの参戦にゴーサインを出したことは明らかになった。ただし、ジェラール・ロペスが率いる間に多くの人材を失ったチームを立て直すには、経営権を握ったルノーの賢明な判断が必要になる。フランスのアイデンティティを大切にしつつ、国籍にこだわりすぎず有能な人材を適所に配置していくことが成功への鍵になる。
(今宮雅子)