【F1ハンガリーGPの焦点】ハンガロリンクを“抜けるコース”に変えたメルセデス。王者の強さの前に、完敗フェルスタッペンに後悔なし
2019年8月6日
「レース前のブリーフィングでは2ストップ作戦は論外だった。第2スティントのハードでゴールまで走ることにも僕は自信を持っていた。でも、チームはそこで2ストップを指示してきたんだ。大きく遅れてコースに戻るんだから、その作戦がうまくいくかどうかなんて分からなかった」
アウトラップから即座に攻めたハミルトンは、セクター2〜3を行く間にレッドブルが同じようにタイヤ交換するチャンスを奪っていた。しかし、残り22周で20秒のギャップを詰め、オーバーテイクしなければ作戦は成功しない。
「そのために必要なペースで走って、ミディアムタイヤが最後まで保つかどうかも分からない。チームは最初、残り9周のところでマックスに追いつけると言ったけど、すぐに“最終ラップで”と変更してきた。僕は彼らの作戦を信じ、あらゆる疑いを頭から追い出して、わずかなタイムもロスしないよう攻め続けるしかなかった」
3番手以下との間隔を考えると、メルセデスにとっては失うもののないギャンブル。しかしチーム、とりわけストラテジストのプロ意識にとっては“トライはしました”というレベルのギャンブルではない。勝てる作戦であることを証明しなくてはならない。ドライバーに対して、予選のように走ることを要求するのだから──。彼らが最も不安を感じたのは2度目のピットの後の最初の8周。周回遅れの処理も必要で、思うように間隔が詰まらない一方、フェルスタッペンもペースを上げて対抗してきた。
メルセデスが行ったのは、ソフト面でハミルトンの不安を払拭し、鼓舞すること。同時に、ハード面で具体的な数値を示し、自分たちの作戦が正当なものだと説得すること──。「フェルスタッペンは終盤にタイヤの限界を迎える」と、彼らは確信を持ってドライバーに告げていた。
コース上では、ボッタスの存在はチームの作戦に貢献できなかったかもしれない。しかし5周目のタイヤ交換の後、47周目まで走行した彼のタイヤの状態を把握したメルセデスは、ハードは42周が限界だと知っていた。もちろん、レース序盤の車重も、最後尾から追い上げてきた展開も、ボッタスと首位のフェルスタッペンでは異なるが、第1スティントのハミルトンとフェルスタッペンを見ても、タイヤに厳しいのはレッドブルの方なのだ。
ハミルトンは、1ストップ作戦でも第2スティントのハードで39周を走行すればよかった。一方で、フェルスタッペンの第2スティントは45周になるはず。その間にタイヤの“崖”が訪れると考えれば、ハミルトンに2回目のタイヤ交換は不要だったかもしれない。しかし抜けないと言われるハンガロリンクを“抜けるサーキット”に変化させるには、タイヤのコンパウンドや履歴も大きく違えるのが正解。何より重要なポイントは、2度目のタイヤ交換を行って攻撃することによって、メルセデスがフェルスタッペンから“タイヤを労わる”自由を奪ったことだ。
「最後までタイヤが保たないかもしれない」とハミルトンが訴えたのは、ファステストラップを記録しながら首位との間隔を10秒まで短縮した60周目あたりのこと。エンジニアの“ボノ”は、即座に「それは問題じゃない」と返答していた。タイヤもパワーユニットも何もセーブすることなく、思いきりアタックするレースがドライバーの大好物であることを、彼らは知っていた。もしも、万が一ミディアムが保たなかったとしても、3番手との差は45秒。もう一度、何も失わずにタイヤ交換するだけのギャップは十分だ。すべてが、レッドブルへのプレッシャーになった。
フェルスタッペンは振り返る。
「もしルイスが2度目のタイヤ交換を行わなければ、彼を抑え切ることは可能だったと思う。彼がミディアムに履き替えた後も、1周で詰められる間隔を1秒に抑えれば、最後まで行ける計算だった。でも、ある段階でタイヤは終わってしまい、僕は1周1.5秒、あるいは2秒も失っていた」
67周目のターン1で、ハミルトンは難なくフェルスタッペンをオーバーテイクした。ほとんど達観したように、2位のポジションを受け入れたフェルスタッペンは、ゴールの後も清々しい表情を見せた。
「今日はメルセデスの方が速かった」
3番手以下を大きく引き離した1対1の対決が、追う立場のメルセデスに戦略の自由を与えた。“もしも”あるいは“……していれば”と振り返ってみても、レッドブルに対抗策はなかった。だから、後悔はない。シンプルに、メルセデスの方が速かった。そして彼らは、ハンガロリンクを“抜けるコース”に変える術を知っていた。
前半戦を最高のレースで締めくくって、F1は短い夏休みに入る。勝ったメルセデスも、王者メルセデスと互角の勝負を展開したレッドブルも、貴重な夏休みを後半への士気につなげるコンディションが整った。
鈴鹿まで、あと10週間──。いつもの年よりも、カウントダウンが熱気を帯びてくる。
XPB Images
(Masako Imamiya)
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1位 | マックス・フェルスタッペン | 110 |
2位 | セルジオ・ペレス | 85 |
3位 | シャルル・ルクレール | 76 |
4位 | カルロス・サインツ | 69 |
5位 | ランド・ノリス | 58 |
6位 | オスカー・ピアストリ | 38 |
7位 | ジョージ・ラッセル | 33 |
8位 | フェルナンド・アロンソ | 31 |
9位 | ルイス・ハミルトン | 19 |
10位 | ランス・ストロール | 9 |
1位 | オラクル・レッドブル・レーシング | 195 |
2位 | スクーデリア・フェラーリ | 151 |
3位 | マクラーレン・フォーミュラ1チーム | 96 |
4位 | メルセデス-AMG・ペトロナス・フォーミュラ1チーム | 52 |
5位 | アストンマーティン・アラムコ・フォーミュラ1チーム | 40 |
6位 | ビザ・キャッシュアップRB F1チーム | 7 |
7位 | マネーグラム・ハースF1チーム | 5 |
8位 | ウイリアムズ・レーシング | 0 |
9位 | BWTアルピーヌF1チーム | 0 |
10位 | ステークF1チーム・キック・ザウバー | 0 |
第5戦 | 中国GP | 4/21 |
第6戦 | マイアミGP | 5/5 |
第7戦 | エミリア・ロマーニャGP | 5/19 |
第8戦 | モナコGP | 5/26 |
第9戦 | カナダGP | 6/9 |