2023.12.29

【F速プレミアム】
若手が才能とチャンスを活かせない2024年のグリッド/スペイン人ライターのF1コラム


(c)XPB Images
 2024年シーズンのF1グリッドは2023年から変化しないままスタートする。他カテゴリーのベテランやFIA F2で活躍するルーキードライバーたちがF1に参戦しづらい現状をスペイン在住のフリーライター、アレックス・ガルシアが解説する。

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 何十年もの間、F1はモータースポーツの最高峰と見なされてきた。世界最大のレーシングチームが、世界で最も重要なサーキットに行き、最高のドライバーが最先端技術を駆使した20台のレーシングカーのコクピットに乗り込む。もちろんこれは理論的には、ということだ。彼らが世界で最高のレーシングドライバーだとは、モータースポーツに詳しい人は誰も言わないからだ。たとえば、インディカー、WEC、もしくは全日本スーパーフォーミュラのトップドライバーはみな、F1に適しているだろう。それが毎年グリッドにいくつか変化がある理由のひとつだ。

 ただし2024年は除外される。F1はまさに、来シーズンを2023年終了時と同じドライバーとともに開幕する。これはチャンピオンシップの歴史上かつてなかったことだ。その上、シーズン開幕戦にルーキードライバーがいないのは1977年以来のことだ。さらに、現在のグリッドのレベルの高さと、シートを埋めることができるドライバーを考慮すると、可能性は低いかもしれないが、2024年はルーキードライバーがひとりもいない状態で始まって終わることもあり得る。そうなれば、シリーズの歴史上初めてのこととなる。

 もちろんこのことは非常にもっともな疑問を提起する。F1には現在、世界最高の20人のレーシングドライバーがいるだろうか? 手短に答えれば『ノー』だと思う。長い答えも『ノー』だ。ただ、もう少し微妙な違いがある。どうあろうとチームは常に最高のドライバーを探しており、ほとんどのドライバーはF1でレースをすることを夢見るだろう。そのすべてを念頭に置いたとして、なぜ2023年から2024年はグリッドに変化がないのだろうか?

 まず、明白な理由を考慮しなければならない。レッドブル、フェラーリ、メルセデスのようなチームは、ラインアップ変更の必要性を感じていなかった。彼らのドライバーたちは全員がレース優勝経験者であり、そのうちふたりは世界チャンピオンだ。それに加えて、マクラーレンの依然としてエキサイティングな若手と、アルピーヌの契約下にあるふたりがいる。これですでにグリッドの半分だ。

(c)XPB Images
 2度の世界チャンピオンでもあるフェルナンド・アロンソ。ダニエル・リカルド、バルテリ・ボッタスといったレース優勝経験者たちもたやすくポジションを獲得したし、アレクサンダー・アルボンは不調のウイリアムズを率いてあり得ないような結果を出し、気迫を証明する以上のことをしてみせた。

 つまり合計で6シートが争われる可能性があった。しかし“弱さ”を感じられたのはローガン・サージェント、ランス・ストロール、そして周冠宇だけだ。ストロールは父親のローレンスがチームオーナーであるおかげで地位を確保しているが、他のふたりはどうだろう? 周はF1での2シーズンで強い印象を残していないかもしれないが、彼は確かな腕のドライバーであり、スポンサーシップを持ち込んでいる。もちろんお金はどのドライバーにとっても常に恩恵となるが、真の才能の持ち主はいつでも良いスポンサーシップを持ち込めるものだ。変化のない来年のグリッドの理由は、現行のレギュレーションを超えたところにある。
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 ここ数年、レース数が増加するにつれ、シーズン中のテストデーが減ってきている。参考までに、F1では現在、開幕戦の前に新車で走行するプレシーズンテストは3日間しか行われていない。チームは通常、割り当てられた“フィルミングデー”の1日を使って新車のシェイクダウンを行っている。そこでの走行距離は100kmに制限されている。そのため経験は非常に貴重なものになる。新人ドライバーはF1デビューの準備に必要な走行量を稼ぐチャンスが得られないためだ。旧型車でのテストは許可されているが、2023年に使用できる最新のマシンは、前世代の2021年型だった。

 2021年のマシンは2022年以降のマシンとは大きく異なっている。つまりどのルーキードライバーも、現行マシンでたった数日の経験を積んだだけでF1の初レースを迎える可能性が高いということだ。15年前はルーキーが最初のレースの数週間前にテストを行っていたので、その差は明らかだ。また、こうした状況はフェルナンド・アロンソのようなドライバーがキャリアを長く伸ばす助けになっている。経験は非常に有効な財産となっている。若手ドライバーが経験を積むのは、はるかに時間がかかるからだ。

 しかしすでに読者の一部が反対しているのが聞こえる! 「信じられないほど才能のあるドライバーはどうなのか? もちろん彼らはF1にすぐに慣れることができるだろう!」

 私も同感だ。実際、アレックス・パロウやパト・オワードのようなドライバーならできると思う。この数年、彼らがフリー走行セッションやアブダビでのオフシーズンテストで最新のマシンを走らせたことは役に立つだろう。だが前述の状況に戻ってみよう。一部のチームは、才能と経験が組み合わされている彼らのラインアップに満足しており、変更する必要性を感じていない。空いているシートはごくわずかだ。そしてここが重要なのだが、他のシリーズのスターたちは、そうしたシートに魅力を感じていない!

(c)Indycar

 これはよいことだと私は考えている。ドライバーたちはインディカーやWEC、スーパーフォーミュラといった他のシリーズの価値を理解しているということだからだ。そしてF1に入ってQ2進出を懸けて戦うことに十分な魅力はない。かつては、F1ドライバーであるというだけで高いステータスが保証されていた。今では、F1世界選手権で13位や14位になるよりも、インディカーで勝つことの方がいいかもしれない。これは実際にパロウが言ったことだ。彼はトップで戦えるチャンスがなければ、インディカーを離れることに興味がないという。

 だからこれが結論だ。F1には信じられないほど多くの才能あるドライバーがいることは確かだ。彼らのうち75%は、世界のトップレーシングドライバーとして数えられると言っていいだろう。しかし残りの25%のドライバーは、彼らの能力を披露するのに十分優れたマシンを与えられていない。すでに他のシリーズで才能を証明したドライバーが世界選手権で運試しをするチャンスを掴む代わりに、その能力レベルを満たしていないドライバーがシートを得るところを目にすることがある。

 結局のところ、これは機会の問題でもある。適切なドライバーが適切なタイミングで準備を整え、意欲を持ち、参戦する必要がある。2024年はそうはならなかったが、2025年にはいくつかの変化が見られるだろうと私はにらんでいる。そういった意味では、来年のFIA F2に目を向けることをお勧めする。そこには将来F1に加わるポテンシャルとチャンスを持った、数多くの非常に印象的なドライバーたちがいるのだ。

(c)Ferrari
 私が特に興奮しているのは、プレマ・レーシングのラインアップだ。フェラーリのサポートを受けているイギリス出身のオリバー・ベアマンと、メルセデス傘下の若きイタリア人スーパースターであるアンドレア・キミ・アントネッリがいる。そしてもちろん、インディカーのパト・オワードとコルトン・ハータ、そしてインディ500で優勝できた場合はアレックス・パロウにも注目するといいだろう。

 しかしひとつだけ確かなことがある。F1に世界最高の20人のドライバーが本当にいるのかどうかにかかわらず、モータースポーツは黄金期を迎えているということだ。どのシリーズを楽しもうが、全体的に信じられないほどのレベルの才能の持ち主たちがそろっているのだ!

(Alex Garcia/Translation: AKARAG)

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