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【レースの焦点】最強の敵が仕掛けた“窮余の策”に動じず、信念を貫く。強い心を手に入れた新チャンピオン

2016年11月28日

 今宮雅子氏によるアブダビGPの焦点。諦めきれないハミルトンの揺さぶりに翻弄されることなく、悲願の世界チャンピオンに輝いたロズベルグ。そこには、敗北の中で彼が身につけた精神的強さと、同じフィールドで戦う仲間が持つ、タイトル争いへの敬意があった。

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 チェッカーフラッグ直後の無線、セバスチャン・ベッテルはチームに感謝の言葉を送りながら、その狭間でこう伝えていた。
「ルイスが卑劣な手を使ったおかげで、難しい状況だった」

 Dirtyと表現したルイス・ハミルトンの策は、ベッテル自身ではなくニコ・ロズベルグに向けられたもの――ポールポジションから順当にスタートして首位を守ったハミルトンは、レース序盤からペースを抑えて走行した。

 ライフの短いウルトラソフトで走った第1スティントではそれがレースリーダーの正当な権利であっても、マックス・フェルスタッペンの1ストップ作戦が見えてきた第2スティント、ベッテルがステイアウトし、短い最終スティントでスーパーソフトを履く可能性が出てきた第3スティントにおいて、スローペースはハミルトンのレースを守るためではなく、チームメイトをライバルの攻撃にさらすためだという意図が鮮明になってきた。

 ハミルトンがタイトルを奪われないためには、自らが優勝し、且つ、ロズベルグが4位以下でなければならないという条件に、メルセデスも警戒を強めていた。チームとしてふたりの戦いに介入しないことを――介入しなくて済むレースを――切望していたに違いない。

 レース中盤の31周目あたり、すでに“ハミルトンリスク”を察知していたメルセデスでは、エンジニアがこう訊ねた。
「ルイス、質問がひとつある。どうしてそんなにペースが遅いんだ?現段階では、ベッテルに対して安全圏にいるとは言えない」

「最後までタイトルを諦めたくない」一心から意図的にペースを落としたハミルトン
LAT


 24周目にダニエル・リカルドが2度目のタイヤ交換を行い、カバーしようとしたキミ・ライコネンが25周目にそれに続いた後、ハミルトンは28周目、ロズベルグは29周目に2度目のピットインを終えていた。

 ところが、フレッシュなソフトタイヤに交換したハミルトンは、第2スティント終盤より遅いペースで第3スティントを走り始めたのだ。一方で、ステイアウトしたベッテルの意図は、メルセデスのピットもブラックレーのファクトリーも予測できた――。

 スーパーソフトでスタートしたマックス・フェルスタッペンが21周の第1スティントを走行し、レースコンディションでは“使える”スペックだと証明していたからだ。そして暫定トップのベッテルは、ハミルトンの8秒前方にいた。

 チームからの無線に応えてわずかにペースアップし、ベッテルとの間隔を4〜5秒台まで詰めたハミルトンだったが、真後ろにいるロズベルグにとってそれはフラストレーションの増すペースでしかなかった。後方からは2台のレッドブルが追い上げてきていた――日曜の日没後、レース中盤のコンディションにおいて、予選より7〜8秒遅いハミルトンのペースはけっして妥当なものではなかったからだ。

「またペースが遅くなった」と、ロズベルグが危機感を募らせる。

 ハミルトンが遅いと言うなら、ニコはチームメイトを追い越していけばいいのだと思われたかもしれないが、ハミルトンの巧みな戦略は最終コーナーからDRSゾーンまでは順当なペースで走り、ロズベルグをDRS圏内に近づけず、抜きどころのないセクター3で極端にペースを抑えるというもの。

 様々な表現でペースアップを促されても「僕のポジションは?」「ベッテルは1ストップなの?」と、知らない素振りでやり過ごした。37周目にスーパーソフトに交換したベッテルがメルセデスより1周1.5秒速い1分44秒で走り始めても、ハミルトンは反応しないばかりか、さらにペースを抑えた。

「本当にペースを上げることが必要だ。ベッテルは本物の脅威になるぞ」
 ピットが伝えても、ハミルトンの態度に変化はない。

 その間にも、ロズベルグ側の無線交信はますます盛んになっていた。「本当にペースが遅い」――ベッテルに対して2秒以上遅いラップタイムまで落としたのだから、ロズベルグがこう言うのも当然だ。

「ルイスはセクター1でペースを上げるから難しいんだ。ポジションを交替することはできないかな。馬鹿げたリクエストだとわかっているけど、レース終盤も彼が2位にいたらポジションは返すから」この言葉から、故意にチームメイトを危険にさらす行為が“あり得ない”ことだというロズベルグの認識がわかる。

 タイトル決定戦のあらゆる事態を想定して、チームはふたりに“スポーツマン精神”を貫くよう要請していたが、ふたりの認識には大きな隔たりがあったのだ。

 ベッテルが1ストップ作戦のフェルスタッペンを抜き、ロズベルグの背後に迫ったところでハミルトンはさらにペースを鈍らせた。パディ・ロウが自ら交信し「これは命令だ」と伝えても、チームの指示に従おうとはしなかった。

 結果、レース終盤にはハミルトンの後ろにロズベルグ、ベッテル、フェルスタッペンが僅差で並ぶことになった。

 しかしハミルトンの失敗は、自ら築いた壁と他チームのライバルによってロズベルグを挟み撃ちにしたところで、追われるロズベルグが自分のDRS圏内に入ってしまったこと。ベッテルも、リスクなしではロズベルグを攻撃できない状況になった。そしてハミルトンの想定外だったのは、ベッテルや、おそらくその後方のフェルスタッペンにも、タイトル争いへの大きな敬意があったこと。

若きフェルスタッペンもタイトルを争うロズベルグに敬意を示し、激しいバトルを控えた
LAT


 レース後、ベッテルは“難しい状況”をこう説明した。「僕のタイヤも性能が落ち始めていたし、問題はルイスがニコのすぐ前にいたことだ。ニコはとても上手くイン側を守っていたから、僕にはターン11のアウトにもインにも行き場がなかった。

「無理してクレイジーに突撃したら、停まり切れずにルイスを巻き添えにし、タイトル争いを台無しにしただろう。僕らは全員、何が起こっているか感じることができたし、目にしていた。ルイスはニコを抑えて後続の攻撃に差し出していた」

 最終戦のタイトル争いを経験してきたベッテルにとって、それは気持ちの良い戦い方ではなかった。

ハミルトンの戦い方に物申したベッテルと抱き合うロズベルグ
LAT


 レース後、ハミルトンは「ベッテルのペースで走る自信はあったし、勝つのは簡単だった」と言った。しかし作戦は失敗――思ったよりはるかにロズベルグの精神は強く、プレッシャーにさらされても彼がミスをおかすことは一度もなかった。

 ハミルトンの策略については、ファンの間でも意見が二分するところ。タイトルのためには選択肢がなかったのだから、それにレースが面白くなったのだから、という賛成派と、気持ちはわからないでもないけれどスポーツ精神には反するという反対派と。

 去年のオースティンで敗北した後、2日間はひとりで考え込んだのだとロズベルグは胸の内を明かした。メキシコGPで、彼が別人のような表情になっていた所以だ。
「2度と、同じ経験はしたくないと誓った。そしてその後(15年終盤から16年のシーズン序盤にかけて)7戦で連勝した」

妻のヴィヴィアンさんと祝福を受ける
LAT


 精神的な強さを身につけ、乱されることのない集中力を養うため、努力を続けてきたのだと、ニコは続けた。それでも「こんなに非現実的なほどタフなレースは、しばらく経験したくない」と言う。同時に、来シーズンは「昨日より今日より、もっと速く走れることは確実」と認める。

 子供の頃からの夢が実現した。「ドーナッツ(ターン)やってもいい?」とチームに確認するところが、ロズベルグらしい。タイヤスモークのなかで「いちばん!」と示した右手も、象徴的だった。

 ジェンソン・バトンとフェリペ・マッサが来年の開幕戦にはいないという事実も、最終戦=アブダビGPを強調した。健康に、自らの意志でF1を去っていくことがドライバーというスポーツ選手にとって最高の幸福なのだとわかっていても、淋しさは埋められない。ファンの心は、2016年の最終戦を起点に、たくさんの思い出に広がっていく。

LAT
惜しまれつつ、ふたりのベテランは去っていく


 大きな心を持ったチャンピオンが去って、新しいチャンピオンが生まれた――。

 長いシーズンの終わりはヤスマリーナの空を彩る花火のように美しくて、その分だけちょっと切ない。




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5位カルロス・サインツ83
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7位ジョージ・ラッセル37
8位フェルナンド・アロンソ33
9位ルイス・ハミルトン27
10位角田裕毅14

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※マイアミGP終了時点
1位オラクル・レッドブル・レーシング239
2位スクーデリア・フェラーリ187
3位マクラーレン・フォーミュラ1チーム124
4位メルセデス-AMG・ペトロナス・フォーミュラ1チーム64
5位アストンマーティン・アラムコ・フォーミュラ1チーム42
6位ビザ・キャッシュアップRB F1チーム19
7位マネーグラム・ハースF1チーム7
8位BWTアルピーヌF1チーム1
9位ウイリアムズ・レーシング0
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