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【特集】ベッテルとフェラーリの夢の行方/4度の王者はあの日のモチベーションを取り戻せるのか

2016年11月6日

 昨年、セバスチャン・ベッテルはフェラーリで3勝をあげた。だが、今年は一段と不満がつのるシーズンを送っており、状況は彼らにとって良くなるどころか、さらに悪化するかもしれない。両者の夢がかなうには何が必要なのか、英AUTOSPORTのF1担当者、ローレンス・ブレットが考察した。


 2015年シーズンの幕開けに先立って、セバスチャン・ベッテルとフェラーリが手を結んだ時、彼らはあらゆる面で似合いのカップルに見えた。 


 レッドブルで失意の1年を過ごしたことで、ベッテルへの評価は悪化しており、フェラーリへの移籍はそれを修復する機会を提供した。一方、フェラーリは、過去20年間で最低と言われたマシンで苦難のシーズンを送ったばかりであり、復興に向けてチームを率いるスタードライバーを必要としていた。そして、彼らは「力を合わせて2000年代初めの栄光の日々を取り戻そう」という目標を掲げた。


 もちろん、ベッテルもフェラーリも、それが簡単な仕事ではないことは承知していた。しかし、それからまもなく2年が経つというのに、彼らのプロジェクトが順調に進行しているようには思えない。

■跳ね馬の競争力低下に伴い、2014年のベッテルのように

 2016年シーズンが深まるにつれて、フェラーリの相対的な競争力は明らかに低下している。ベッテルのフラストレーションは高まるばかりだ。以前よりミスも目立つようになり、彼本来のドライビングの実力が発揮されていない。

2016年第13戦ベルギーGP ベッテルとライコネンが接触
2016年第13戦ベルギーGP ベッテルとライコネンが接触


 ちょうど、4年連続でタイトルを獲得したベッテルが、やや気を抜いたかに見えた2014年にも通じるところがある。その年、レッドブルにはチームメイトとしてダニエル・リカルドが加わり、しばしば彼を上回るパフォーマンスを示した。ベッテルは新たな挑戦を必要としていた。


 ただ彼の所属するチームが違うだけで、2016年も当時と同じようなことが起きているのだ。最近では、すでにドライバーとしてのピークを過ぎたキミ・ライコネンが、ベッテルより上位にいることが多い。また、チームボスのマウリツィオ・アリバベーネも、やむにやまれずこれまでの慣習を破り、公の場でベッテルを批判し始めた。アリバベーネは日本で、ベッテルは来季以降のシートを「勝ち取らなければ」ならず、チームのいろいろな領域に関心を持つよりも、自分が乗るクルマのことに集中し直すべきだと述べている。


 これはベッテルの耳に快く響く言葉ではないだろう。しかし、アリバベーネが何らかの手を打たねばならないと感じて、こうした発言をしたことは明らかだ。

■フェラーリ加入は長年の夢だったが……

 ベッテルとフェラーリの関係は、この上なく良い形で始まった。ベッテルにとって、フェラーリ加入は長年の夢のひとつだったのだ。「偉大なワールドチャンピオンたちの名前と同じ列に、自分の名前が並ぶというのは、本当に特別な名誉だ。でも、フェラーリ・ドライバーのリストに名を連ねるのも、同じように特別な名誉だよ」と、彼は語っていた。


「いつかマラネロの一員としてレースをすることが、僕の夢だ」。ついにその夢が叶った時、彼は仕事を始める日が待ちきれないようだった。2014年アブダビGPの直後に行われたテストセッションで、彼はさっそくフェラーリのガレージに姿を見せ、自分の新たな任務への強い意欲を示した(写真下)。

2014年アブダビテストでフェラーリチームを訪れるセバスチャン・ベッテル
2014年アブダビテストでフェラーリチームを訪れるセバスチャン・ベッテル


 もちろん、まだマシンに乗り込むことは許されなかったが、彼はチームの人々と挨拶を交わしながら、仕事が進め方を少しでも理解し、どんな小さな情報でも可能な限り吸収したかったのだ。そんな気概と成功への強い思いは、2015年シーズンを通じて維持され、ベッテルとフェラーリは成績の急回復によって勢いに乗った。


 ベッテルはフェラーリ移籍後の初レースでポディウムに立ち、シーズン3勝をあげて、チームをコンストラクターズ選手権2位に導いた。一時は彼自身も、ドライバーズ選手権でニコ・ロズベルグを僅差で追い落とすかに見えたほどだ。それは予想をはるかに上回る成績だった。


 結果として、今年は期待の水準が変わった。フェラーリのボスたちは、チームがメルセデスに対する真の挑戦者になることを望んだのだ。実際、シーズン序盤戦では、それも可能であるかに見えたが、特にオーストラリアGPでそうだったように、彼らは好機をことごとく逸し続け、「メルセデスにとっての脅威」は尻すぼみになっていった。


 ベッテルも、今季の自身のパフォーマンスには納得がいかないことを認めている。「チームが好成績を望んでいるのと同じように、僕も好成績を望んでいる」と、彼は鈴鹿で語った。「だけど、僕のパフォーマンスが良くなかったレースもいくつかあったし、そういうときには自分に対して腹が立った。できるはずのことができなかったからだ」

■シューマッハーとは違う、ベッテルが置かれた環境

 ベッテルは勝ちたいと思っている。だが、彼は5度目の選手権タイトルを勝ち取るために、本気で必要な努力を傾けようとしているだろうか?


 ベッテルがフェラーリに加わった時、彼はミハエル・シューマッハーと同様の働きをして、チームの状況を好転させることを夢見ていた。すでに4度も世界チャンピオンになっている彼に、それに必要な才能があるのは間違いない。とはいえ、その武器となるクルマを彼が自分で作ることはできず、戦うための準備の一部はテクニカルチームに頼らざるをえない。


 彼の加入以来、フェラーリのマネジメント組織は少しも改善されず、むしろ以前より悪くなっている。パドックで最も評価の高いテクニカルディレクターのひとり、ジェイムズ・アリソン(写真下)はすでにチームを去った。彼の後任となったマッティア・ビノットは、エンジン技術者としてはきわめて優秀ながら、テクニカルチームのリーダーというタイプではない。

セバスチャン・ベッテルとジェイムズ・アリソン
セバスチャン・ベッテルとジェイムズ・アリソン


 つまり、フェラーリの技術陣はリーダーがいない横並び構造の組織になったのだが、実は彼らが何よりも必要としているのは優れたリーダーなのだ。また、アリバベーネはチームを率いるにはまだ経験が足りず、社長のセルジオ・マルキオンネは、レースの世界ではなく自動車業界で育ったビジネスマンだ。


 ベッテルが立たされている状況は、5年間で一度もタイトルを獲れず、シューマッハーの黄金時代にはほど遠い結果に終わった、フェルナンド・アロンソの在籍期間と似ている部分もある。


 シューマッハーは、ジャン・トッドのチーム改革が軌道に乗り始めたところでチームに加わった。そして、ロス・ブラウン、ロリー・バーンを加えて、彼を中心としたチームが築かれた。一方、ベッテルがマラネロに来たことで、チームには新たな核ができたが、彼はスタッフを誰も連れてこなかったため、フェラーリは彼を中心としたチームを作るためのフレッシュな人材を欠いていたのだ。


 さらに言えば、ベッテルが2015年に力強いシーズンを送れたのは、前年途中までチームを指揮したステファノ・ドメニカリ時代の遺産のおかげでもあった。ドメニカリがフェラーリを去ってからすでに2年半が経ち、彼の部下だった人々も、その多くがチームを離れている。


 状況は変わりうる。だが、テクニカルチームの組織替えが実を結ぶまでには、少なくとも3年はかかるのが普通だ。残念なことに、今年に入ってからの人事異動は良い方向への変化とは思えず、ベッテルはそれ以上に長く待たされる可能性もある。

■ベッテルの「フェラーリ・ドリーム」をかなえるためのふたつの要因

 今年29歳のベッテルは、彼自身が望めば、まだ数年は現役でレースを続けることができる。とはいえ、彼はこの先さらに2、3年を、なかなか勝てる体制を作れないチームにフラストレーションを感じながら過ごしたいと思うだろうか? また、はたして彼は、アロンソが3度目のタイトルを切望しているのと同じくらいに、5度目のタイトル獲得を強く望んでいるだろうか?


 ベッテルは持てる力のすべてを出しきる必要があり、それでもなお選手権には手が届かないかもしれない。フェラーリがタイトルを狙えるクルマを作れない可能性もあるからだ。その歴史を通じて、スクーデリアには輝かしい栄光の時期も何度かあったが、その谷間には不振にあえいだシーズンも少なくなかった。次に選手権タイトルを獲るまでに、また21年待たされることなどありえないと、誰が言い切れるだろうか。


 彼の現在の契約の期限は、来年末までとなっている。2018年以降、アロンソが引退するか、あるいはストフェル・バンドーンが期待に応えられず、ジェンソン・バトンが呼び戻されることもなければ、ベッテルはマクラーレンに新たな活躍の場を見いだせるかもしれない。さもなければ、フェラーリでもう1年我慢しているうちに、メルセデスかレッドブルに空席ができる可能性もある。

2016年F1第3戦中国GP 2位表彰台を獲得したセバスチャン・ベッテル
2016年F1第3戦中国GP 2位表彰台を獲得したセバスチャン・ベッテル


 だが、ベッテルの「フェラーリ・ドリーム」は、まだ終わってはいない。少なくとも、あと一度マネジメント体制が変わるまでは、彼はマラネロにとどまろうと考えるのではなかろうか。ただし、それが成功につながるか否かは、次の2つにかかってくる。ひとつは、まずベッテル自身が、2014年のアブダビ・テストでフェラーリのガレージを訪れたときの強い決意と意欲を取り戻せるかどうか、もうひとつは、フェラーリが現在のトップダウン型の組織から脱却して、体制を構築し直せるかどうかだ。


 それができなければ、ベッテルとフェラーリが抱いた夢は、幻に終わらざるをえないだろう。



(Translation:Kenji Mizugaki)

この記事は国内独占契約により英 AUTOSPORT.com 提供の情報をもとに作成しています




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