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【レースの焦点】勝負できる高揚、笑みが止まらない“シャンパン・ハイ”

2016年8月2日

 今宮雅子氏によるドイツGPの焦点。前半戦を締めくくるホッケンハイムは小さな変化のきざしが、はっきりと見えた。メルセデスに、ふたりそろって割り入ったレッドブル。それでも勝利には遠かったリカルドが、なぜあんなに喜んだのか──。

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 レーシングシューズで祝杯をあげたいほど、ダニエル・リカルドにとって達成感のある100戦目だった。オーストラリアの風変りな“儀式”はみんなを驚かせたが、これはアッセンでMotoGP初優勝を飾った同胞のライダー、ジャック・ミラーに続いて母国の仲間たちに送ったメッセージ。「100戦目で、表彰台に上がって、夏休み目前で……」と、あふれる笑みが止まらない。

 2014年に3勝を飾ったリカルドが、ここまでハッピーな理由は、ほかにもたくさんある。スペインとモナコで味わったチームへの不信感や、その後の数戦で経験したスピード不足を乗り越えて、ハンガリーGPでは久しぶりの表彰台に上がった。そしてホッケンハイムではハンガロリンクで抱えた問題──レースペースでフェラーリに劣るという難題をクリアして、フェラーリを大きくリードした。

「メルセデスの一角を崩したいと思っていたけど、2台そろって彼らに割って入れたなんて最高だ」

 いまの自分たちは2015年よりも2014年に近い状態だとリカルドは表現するが、ホッケンハイムはパワーが重要なサーキット。2年前はメルセデスから50秒以上遅れて、6位でゴールしていた。
 ルイス・ハミルトンから7秒遅れで飾った今回の2位表彰台は、マシンの進歩と同時に、優れた作戦の上にドライバーの力とタイヤ性能を結集してこそ実現したもの。オリジナルのタイヤ配分はメルセデスと同じ。しかし、メルセデスと異なってスーパーソフトをメインに使ったレース作戦には、リカルド自身の意志が強く反映されていたに違いない。

「スーパーソフトのバランスは最高だった」

 ゴール後のエンジニアへの無線から、100戦目の任務を遂行したドライバーの誇りが伝わってきた。

 “戦える”実感をつかんだのは、金曜日のフリー走行。スーパーソフトで20周のロングランを行ったリカルドは、ニコ・ロズベルグと同等の速いペースで周回して、タイヤ性能を維持することに成功していた。
 予選Q2はスタートタイヤで3周の計測ラップを走ったものの、マックス・フェルスタッペンから0.4秒遅れのタイムがかなり抑えたものであったことは、すぐに明らかになった。Q3に入ってから0.5秒以上タイムを短縮するのはリカルドの得意技。ホッケンハイムのQ3では1回目のアタックで、Q2より0.8秒速いタイムを記録して3位のポジションを手に入れた。大切なのは、チーム内で主導権を握って、自らの作戦を主張する基盤を築いたことだ。

スタートの勝負を迎える前から、いい流れはできていた
Sutton



 レースでは、ポールポジションから出遅れたロズベルグをかわしてルイス・ハミルトンに続いたものの、ターン1の縁石を果敢に使ったフェルスタッペンに不意を突かれたかたちで3番手にポジションを戻していた。先輩たちに何を言われても、コース幅も他のドライバーの存在も、そこにあるものすべてを活かして攻めてくるのがフェルスタッペン──FIAは土曜の朝、ターン1出口に関しては白線の外側を走っても4輪が縁石の上に留まっているかぎりトラックリミットを守っているとみなすと通達していた。レッドブルの2台はリカルドの左前後輪とフェルスタッペンの右前後輪が数センチの間隔もないほど接近したが、ここで接触しないのがふたりの関係。落胆する暇もなく、リカルドはロズベルグとの接戦にフォーカスして3番手を守り通した。

「あそこでニコを抑えて、自分がやるべきことに集中することが僕のレースにとっては、とても重要だった」

 メルセデスにとってもレッドブルにとっても驚きだったのは、金曜日のフリー走行と比べてもタイヤの性能低下が早かったこと。ハンガロリンクと違って古いままの舗装は、燃料を積んだ状態では予想以上に軟らかいタイヤに厳しかった。そこで2ストップから3ストップへの作戦変更を考え始めたチームでは、ふたりのタイヤを違える第2スティントを決断。ハミルトンとリカルドがソフトに履き替え、フェルスタッペンとロズベルグは2セット目のスーパーソフトで走り始めた。

「最初の2スティントはスーパーソフトからソフトで走ったけど、前の2台に襲いかかれるほどのペースはなかった」と、リカルドは前半33周を説明した。
 しかし、レースの中盤あたりで路面はソフトよりもスーパーソフトに適した状態へと変化する。
「後半の2スティントでスーパーソフトを履くと一気に元気になって、本当にプッシュできるマシンになった」とリカルド。最終スティントにスーパーソフトのニューセットを取っておいた様子にも、読みは間違っていないと信じる意志が表れた。
 フェルスタッペンは28周目にスーパーソフトからソフトに交換。ロズベルグのアンダーカットをカバーしてコースに戻ったが、直後のターン6ではインに飛び込んだメルセデスが極端にターンインを遅らせた結果、行き場を失ったレッドブルはコース外に押し出されてしまった──コーナーにアプローチする際のフェルスタッペンの動きはハンガロリンクのターン1にも似て微妙なものであったが、その後の対応が不味かったのはロズベルグのほう。彼が5秒加算のペナルティを受けたことによって、フェルスタッペンとレッドブルは“ペナルティキック”をゲットしたかたちになった。

 33周目にスーパーソフトを履いたリカルドはチームメイトより1秒速いタイムで走り、38周目にはDRS圏内まで迫った。レッドブルにとって大切だったのはロズベルグから5秒以上引き離されないことで、2台ともタイムロスすることがないよう、チームはリカルドを前に出した。第3スティントのソフトでもタイヤに苦労していたフェルスタッペンは45周目、ロズベルグをカバーするかたちで最後のピットイン。次の周回にはリカルドもタイヤ交換を行い、2台そろってロズベルグの前に出ることに成功した。

 最終スティントのリカルドは第3スティントより、さらにペースを上げて11秒あったハミルトンとの差を6秒まで縮めた。5基目のターボチャージャーとMGU-Hを使用するメルセデスのペースはパワーユニットを労わって「6秒間隔を保つ」ためコントロールしていたもので、それ以上リカルドが接近することはなかったが、ハミルトンに少しでも“パワーユニットを使わせる”ためのプッシュは意味が大きい。夏休み前の最後のレース、マシン性能の最大限を活かしたデータをチームにもたらした意味はさらに大きい──シーズン後半と来シーズンに向けたリソース配分や開発の方針を最適化するため、貴重なデータだ。

 ホッケンハイムで、リカルドはメルセデスと戦うことを目指した。タイヤ管理の難しいコースをF1では初めて走るフェルスタッペンは、フェラーリの前でゴールしてコンストラクターズ選手権のリードを広げることに気持ちを集中した。それぞれが週末の役割をきちんと果たした様子が、ゴール後のふたりの笑顔に表れた。チームに一貫性があったことも“勝因”。ハンガロリンクではレースで速いフェラーリを抑え、ホッケンハイムではポールポジションにいたメルセデスを捕えることに成功した。

表彰式の前に「1コーナーは、びっくりしたよ!」と18歳のチームメイトを称えた
XPB Images



「レッドブルにソフトタイヤが残っていないことを考えると、最後のスティントで彼らのスーパーソフトが摩耗することに期待していた」と、メルセデスのパディ・ロウ。「しかし、彼らは見事にタイヤを管理してみせた」──敵ながらあっぱれと、レッドブルに賞賛を送った。

 ハンガロリンクでフェルスタッペンが口にした「(リカルドの後ろで)僕は、おばあちゃんのように運転している」発言を受けた質問に対して「マックスのおばあちゃんは結構、速いんだね」と切り返したところから、リカルド劇場が始まった。

「彼は僕のお気に入りなんだ。本当に大好きさ〜」というのは、ブルーフラッグでなかなか譲らないエステバン・グティエレスへの不満を「できるかぎりの礼儀をもって伝えた」言葉。

 表彰台の儀式“Shoey”でハミルトンとフェルスタッペンを固まらせたあと、記者会見で質問したジャーナリストに「Top of the morning to you」と完璧なアイリッシュアクセントでアイルランドの挨拶を披露したところ……実は、ジャーナリストはアイルランドではなくスコットランドの人だと判明。自らの大間違いに笑い転げながら「週末の間ずっと、これが言いたくて僕に質問してくれるのを待っていたんだ」と白状した。ハミルトンとフェルスタッペンに「靴に入れたシャンパンなんか飲むから酔っ払うんだよ」「汗入りのシャンパンで、あたったんじゃないの?」と突っ込まれても笑いが止まらない。批判ばかりが目立つF1では、こんなシーンもご愛嬌。最高のレースを実現した喜びが、みんなに伝わった。

「表彰台に立つのは、世界一すばらしいフィーリングだ」

 スペインやモナコの苦い思いを経験したからこそ、こう言える。世界一の笑顔が、夏休みに向かう、みんなの気持ちを明るくした。

レース後の会見はリカルドの独壇場に。F1はビッグスマイルの余韻とともに夏休みを迎える
XPB Images



(今宮雅子/Text:Masako Imamiya)




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