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メカ分析:メルセデスが追求する“力業”──スリットでリヤウイングの効果を延長
2016年7月20日
リヤウイングの翼端板に設けるスリットは、もともと誘導抵抗を減らす狙いで刻まれている。誘導抵抗は、3種類に大別できるドラッグ(空気抵抗)のひとつで、圧力に差があると生まれる。リヤウイングの下面は圧力が低く、上面は圧力が高い。すると圧力の高い方から低い方に流れが生まれ(高気圧から低気圧に空気が流れる原理と同じ)、それが渦になる。
雨上がりの走行でリヤウイングの翼端板を基点に発生する渦が見られる場合があるが、あれは誘導抵抗が可視化された状態だ。渦の大きさは抵抗に比例するので、大きな渦(あるいは長い渦)を引っ張っているマシンは「ドラッグが大きい」と判断することができる。
その渦を小さくするのがリヤウイング翼端板上部に刻まれたスリットだ。圧力の高いウイング上面から適量の流れをウイング下面側に供給することで、渦の発生を抑える。これが基本の考えだ。
第10戦イギリスGPでメルセデスが持ち込んだリヤウイングは、翼端板のスリットが前方に貫通している(注:縁には金属製のアンカーあり)。誘導抵抗を減らす機能を追求した結果こうなったとも考えられるが、断面を注視すると別の考えが湧いてくる。
4つの断面が、翼断面になっているのだ。つまり、小さなウイングが4枚重なった状態。リヤウイングならぬサイドウイングであり、リヤウイングをサイドに延長したと解釈することもできる。スリットを通じて横方向に抜けていく流れを利用し、ダウンフォースを発生させているのだろう。誘導抵抗の低減を狙うと同時にダウンフォースを発生させているというよりも、むしろ「うちはヨソよりもパワーがあるんだからドラッグなんか気にしないで、どんどんダウンフォース出しに行こうぜ」と、強引にダウンフォースを獲りにいっているように見える。
こんな力業を見せつけられたら、追いかける側は意気消沈するしかないだろう。
(Text:世良耕太(Kota Sera))
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