【レースの焦点】一貫性に欠ける裁定が議論を呼ぶ。カメラは見ていたベッテルの“心変わり”
2016年10月31日
レース後のリリースのなかでいちばん幸福に満ちていたのは、オーガナイザーからのものだった。日曜日の観客数は135、026人、3日間の合計は339、967人――冷たい気候にも負けず、各曜日とも昨年以上の観客が集まった。
メキシコGPの最大の特色は、スタジアムのスタンドを埋める陽気なファン。ビール片手ににぎやかに観戦していても、セルジオ・ペレスのマシンは絶対に見逃さない。TVカメラを向けられたときのリアクションは世界一。グランプリは最初から最後まで祝祭の空気に包まれていて、世界中のF1ファンに“来年はメキシコGPを観に行きたい”と思わせてしまう。ストイックになりすぎることもセレブ感を見せつけることもなく、この国の人々はレースと人生を同時に楽しむ術を知っている。
心を打つのは、表彰台を包む祝福の歓声。母国のドライバーたちを応援していてもフェラーリのファンでも、レースが終われば心から勝者を讃える――スポーツに対する敬意は清々しく、このグランプリの懐の深さを示すものだ。
23年のブランクを経てカレンダーに復帰したグランプリでも、F1はメキシコから学ぶことがたくさんある。
レース後の裁定で覆った正式結果が、そんなファンの心に水を差していないことを祈らずにはいられない。
エルマノス・ロドリゲス・サーキットのいちばんの特徴は2000メートルを超える標高で、1.2kmの長いストレートとふたつのDRSゾーンにもかかわらず、オーバーテイクが極端に難しい。空気密度が薄いため、前のマシンのスリップストリームに入ってDRSを開いても一気に近づくことが難しく、ブレーキングで勝負する際にも空気の“壁”が助けてくれない。
68周目のターン1では、3番手マックス・フェルスタッペンがフロントタイヤをロックさせてオーバーラン。ところがレッドブルがターン2をショートカットするかたちでタイムを失うことなく、もとの3番手に戻ってポジションを譲らなかったところで0.6秒後方から追っていたセバスチャン・ベッテルの怒りが爆発した。
ベッテルの気持ちも理解できる。68周目のラップタイムは、フェルスタッペンもベッテルも1分23秒794――皮肉なほど、1000分の1秒まで同タイムなのだ。コースを外れたフェルスタッペンはもともとまえを走っていたのだからアドバンテージを得ていないと言うけれど、ベッテルから見れば“ミスをしたのに何も代償を払っていない”のは理不尽なことこのうえない。
フェルスタッペンのミディアムタイヤがその時点で56周を走行していたのに対して、ソフトの第1スティントを32周まで引き延ばしたベッテルのミディアムは20周若く、フェラーリのほうが速さを備えていた。しかし1分22秒台で走るベッテルのまえに1分23秒台のフェルスタッペンが立ちはだかり、1分21秒台のダニエル・リカルドが迫り、フェラーリはレッドブルに挟まれるかたちになってしまった。
68周目の時点で、スチュワードがレッドブルに対して、フェルスタッペンのポジションをベッテルに譲るよう指示を出していればそれは正当な裁定に映ったであろうし、問題が必要以上に広がることもなかった。
しかし、スタート直後のターン1でルイス・ハミルトンが同じようにコースアウトし、何も失うことなくターン3でコースに復帰した――審議対象にすらならなかった――様子を見ていたフェルスタッペンにとっては、譲る理由が見当たらなかった。
問題を大きくしたのは、一貫性を欠いたスチュワードの判断。そしてスチュワードの判断を困難にしたのは、ターン1でミスをしてもタイムロスすることなくコースに復帰できてしまうというサーキットの形状だった。舗装を外れてグリーンで減速しても、ターン2をショートカットすることによってロスが相殺されてしまうためだ。
ターン1、そしてターン4でコースアウトした際に、物理的に不利になる工夫がコースになされていれば、禍根を残す結果やドライバー間の論争は免れることができたはず。ドライバーが譲るべきか、譲らなくて良いのかということでなく、そういう状況を生んでしまうコースが問題なのだ。この点については、来年に向けて改善が期待される。
フェルスタッペンに塞がれたかたちのベッテルには、ラップタイムで1秒速いリカルドが迫ってきた。ベッテルの敗因は、70周目のターン4にアプローチする際、不用意に左のイン側を大きく開けてしまったこと。リカルドがインに飛び込んだ後、ブレーキングに入ってからベッテルが走行ラインを変えたため、レッドブルは白煙を上げながらクラッシュを回避することになった――外から見れば判断の難しい“レーシングインシデント”であっても、オンボードカメラの映像はベッテルの“心変わり”をしっかり映していたし、スチュワードが入念に審査したデータでもブレーキングに入ってからのライン変更は証明された。
問題となったのは“ベッテルがラインを変えなければリカルドが抜けたか否か”、バトルとして迫力があったか否かではなく、ラインを変えたという事実。USGP以来、スチュワードへの報告事項として明文化された禁止事項は、FIAとしても明文化した直後なだけに、なし崩し的に許してしまうことはできなかったのだ。
ゴール直後にはフェルスタッペンに5秒加算のペナルティが下されてベッテルが表彰台に上がったものの、ゴールの3時間後にはベッテルに10秒加算のペナルティが科せられ、メキシコGPの3位はフェルスタッペンからベッテルへ、ベッテルからリカルドへと移行した。“10秒”という秒数には、チャーリー・ホワイティングに対する悪態も影響しているのかもしれない。レースディレクターに対して「失せろ」という発言は、サッカーでもレッドカードに値する失言なのだから。
オーバーテイクが難しいサーキットでは、スタートでなんとかワン・ツーを守ったメルセデスの2台がそのままポジションを維持し、ハミルトンはオースティンに続いて完勝を飾り、ロズベルグはダメージを最小限に抑えることに成功した。
その後方、平坦になりがちなレースを華やかにしたのは、1周目のバーチャルセーフティカー→セーフティカーのタイミングを利用してスーパーソフトからミディアムに交換、さらに2回目のストップでソフトを履いたリカルドの戦いぶり。17番手まで後退した後、コース上のオーバーテイクで10ポジション以上を挽回し、4番手まで浮上し、50周目のピットの後は18秒あったベッテルとの間隔をどんどん克服していった。
「最後までハンターでいたレースは、一人で走るよりずっと楽しかった」と、リカルド。「レースはタフであるべきだし“お先にどうぞ”と譲ってもらうつもりもない。でも、ブレーキング時の動きについては話し合ってきたし、いまでは明文化されたルールなのだから、今日の裁定は然るべきものだと思う」
言い換えれば、ルールが明確になったからこそ、ベッテルのインに飛び込んだターン4へのアプローチ。レースの巧みさと冷静な思考によって、苦労を重ねた週末を3位という結果に結びつけた。
「メキシコは元気かい?世界一のみんなへ――本当にありがとう!」2位に終わったものの、ファンの祝福を受けてスペイン語で話しかけたロズベルグは1年前に勝利したときの表情を取り戻した。表彰台のセレモニーの後、思いがけず沸き上がったニコ・コールも、タイトルへの後押し。少しこわばっていた心に自信を取り戻し、初タイトルを目指して、笑顔で最後の2戦へ向かう。
関連ニュース
5/17(金) | フリー走行1回目 | 20:30〜21:30 |
フリー走行2回目 | 24:00〜25:00 | |
5/18(土) | フリー走行3回目 | 19:30〜20:30 |
予選 | 23:00〜 | |
5/19(日) | 決勝 | 22:00〜 |
1位 | マックス・フェルスタッペン | 136 |
2位 | セルジオ・ペレス | 103 |
3位 | シャルル・ルクレール | 98 |
4位 | ランド・ノリス | 83 |
5位 | カルロス・サインツ | 83 |
6位 | オスカー・ピアストリ | 41 |
7位 | ジョージ・ラッセル | 37 |
8位 | フェルナンド・アロンソ | 33 |
9位 | ルイス・ハミルトン | 27 |
10位 | 角田裕毅 | 14 |
1位 | オラクル・レッドブル・レーシング | 239 |
2位 | スクーデリア・フェラーリ | 187 |
3位 | マクラーレン・フォーミュラ1チーム | 124 |
4位 | メルセデス-AMG・ペトロナス・フォーミュラ1チーム | 64 |
5位 | アストンマーティン・アラムコ・フォーミュラ1チーム | 42 |
6位 | ビザ・キャッシュアップRB F1チーム | 19 |
7位 | マネーグラム・ハースF1チーム | 7 |
8位 | BWTアルピーヌF1チーム | 1 |
9位 | ウイリアムズ・レーシング | 0 |
10位 | ステークF1チーム・キック・ザウバー | 0 |
第7戦 | エミリア・ロマーニャGP | 5/19 |
第8戦 | モナコGP | 5/26 |
第9戦 | カナダGP | 6/9 |
第10戦 | スペインGP | 6/23 |
第11戦 | オーストリアGP | 6/30 |