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【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第17回】“非の打ち所がない”若手に感心。ブラジルでは機能しないタイヤに苦戦

2023年11月16日

 2023年シーズンで8年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄エンジニアリングディレクター。南北アメリカ大陸3連戦の2戦目、メキシコでは若手ドライバーのオリバー・ベアマンをFP1に起用。初めてのフリー走行ながらもベアマンは完璧なセッションを過ごしたと小松エンジニアは高く評価した。


 続くブラジルでは今年最後のスプリントレースが行われ、高い路面温度に苦戦。他チームとは異なり数少ないミディアムタイヤでの戦いを選んだがグリップの低さに悩まされた。しかしその一方で、スプリントでの経験が決勝レースをほぼソフトタイヤで走り切るという選択にも繋がった。メキシコシティGPとサンパウロGPの現場の事情を小松エンジニアが振り返ります。


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2023年F1第20戦メキシコシティGP
#20 ケビン・マグヌッセン 予選17番手/決勝DNF
#27 ニコ・ヒュルケンベルグ 予選12番手/決勝13位


2023年F1第21戦サンパウロGP
#20 ケビン・マグヌッセン 予選14番手/スプリント16位/DNF
#27 ニコ・ヒュルケンベルグ 予選11番手/スプリント18位/決勝12位


 アメリカ大陸3連戦の2戦目、メキシコシティGPではFP1にフェラーリの育成ドライバーであるオリバー・ベアマンを乗せました。アメリカではクルマのアップデートがあって忙しかったので、その前のカタールで彼のシート合わせを行い、ミーティングに出るなど週末の流れを学んでもらいました。

オリバー・ベアマン
2023年F1第18戦カタールGP木曜日 ハースVF-23のシート合わせを行うオリバー・ベアマン


 オリバーを起用した感想は「非の打ち所がない」です。態度はいいし、周りのことを把握する余裕もあって、「今どんな状況で、自分は何をしないといけないのか」を理解できていました。物事を吸収する能力もあって、メキシコでは水曜の午後からサーキットに来てもらいいろいろ仕事をしましたが、僕としては非の打ち所がないという言葉につきます。


 走行プログラムに関しても「このランは何が目的で、自分はどうするべきか」をわかっているし、実際に乗せても大きなミスはほぼありませんでした。とにかく落ち着いていて、うまくいかないラップがあってもその翌周にタイヤを冷やしている間に何があったのかを自分自身で把握し、エンジニアからのフィードバックを冷静に聞くことができていました。そしてその次のラップでそれに適応する能力も持ち合わせていました。


 最後にソフトタイヤでアタックした際、彼はうまく1周をまとめる事ができませんでした。しかしそれでパニックや不機嫌になることはなく、うまく自分をリセットして、淡々ときちんと物事をこなしていました。セッションが終わって帰ってきた時に「タイムを出せなくて悔しい」とは言っていましたけれど、それがすべてではないというのも自分のなかでよくわかっていました。ロングランでは、彼はとにかくタイヤを壊さないようにと最初の数周はちょっとコンサバに走りすぎていたんです。その後のタイヤの具合からそれに気付いたようですが、どちらかというとコンサバに走った方が勉強になるからこれでよかったと自分なりにしっかりと分析していました。アブダビでもFP1に走る予定ですが、2セッション目でどんな成長を見せてくれるのか楽しみにしています。

オリバー・ベアマン(ハース)
2023年F1第20戦メキシコシティGPフリー走行1回目 オリバー・ベアマン(ハース)

オリバー・ベアマン(ハース)
2023年F1第20戦メキシコシティGPフリー走行1回目 オリバー・ベアマン(ハース)


 さてご存知のとおりメキシコシティは標高2240mという高地にあるため、空気が薄くダウンフォースが不足します。普通だとアメリカGPよりもダウンフォースをつけるために大きなリヤウイングを使わないといけないのですが、うちはすでにアメリカで最大ダウンフォース仕様で走っていました。ですからメキシコでは絶対的なダウンフォース不足により、すごくドライブの難しいクルマになり、特にFP2から乗ったケビンは苦労していました。


 これを受けて金曜の夜にセットアップを大幅に変えたのでケビンにとっては土曜のFP3がとても重要でした。しかしメカニックのミスで左のリヤタイヤがきちんと装着されておらず、結局まともに走れたのは1周のみとなってしまいました。予選でもQ2に進出できる可能性はかなり低かったので、Q1でソフトを3セットすべて投入してなんとか15番手を目指しました。結果はやはりフリー走行での走行不足が大きく響いて17番手で終わってしまいましたが、これがすべてケビンのせいとは言えません。


 またレースでは大きなクラッシュをしてしましたが、これも彼のミスではありません。リヤブレーキの温度がかなり上がり、それに対処しなかったことでいろいろなものに影響が出て、最終的にはリヤのサスペンションが壊れてしまいました。壊れた理由はほぼ確実にオーバーヒートのせいだと考えています。

2023年F1第20戦メキシコシティGP クラッシュ後、回収されるケビン・マグヌッセン(ハース)のマシン

■グリップしないミディアムに苦戦。次戦ラスベガスは2台の仕様を分けてデータ収集

 3連戦最後のブラジルは、今シーズン最後のスプリントでした。うちは数少ないミディアムタイヤ勢でしたが、僕は他のチームはソフトを選ぶだろうと考えていました。ただ土曜は路面温度が高かったので、他のチームが苦労するならうちはもっと苦労するというのもわかっていました。ミディアムを選んでも、グリップ不足で苦しむか、あるいは苦しむ一方でオーバーヒートの症状が減ってもっと一貫性を持って走れるようになり、ソフト勢が苦しくなる終盤にタイヤを活かせるかの2択になりますが、今のうちのクルマでは後者にかけるしかなかったです。


 グリッドにも中古のミディアムで行き、そこでグリップレベルが低いという話もドライバーとしました。それでもやはり「ミディアムでいくしかない」と僕もドライバーふたりも言ったのですが、思ったよりミディアムのグリップのなさに悩まされました。滑りまくってオーバーヒートが酷くなりどうしようもなかったです。

ケビン・マグヌッセン(ハース)
2023年F1第21戦サンパウロGP ケビン・マグヌッセン(ハース)


 だからレースではほとんどミディアムを使わなかったのです。レースは基本的にソフト→ミディアム→ソフトの2ストップ戦略を予定していて、ニコはスタート直後のアレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)との接触で右のフロントサスペンションにダメージ受けたようだったのでピットインして安全確認をしました。この時タイヤをミディアムに変えたのですが、その直後赤旗中断になったので、ここでタイヤ交換の義務を消化しそれ以降はミディアムを使わなくてもいい状況になりました。


 スプリントの結果を見てソフトでのリスタートを選びましたが、再開後にミディアムのオスカー・ピアストリ(マクラーレン)がダニエル・リカルド(アルファタウリ)に抜かれたりと苦労していたので、やはりミディアムはあまりよくなさそうだということで、21周目のピットインでもソフトを選択。最後のスティントをどうするか迷いましたけど、ミディアムでうまく走れている人がいる一方でタイムが落ちている人もかなりいたので、ここもソフトにしました。結果としてニコは、リスタート後はすべてユーズドのソフトで走ることになりましたが、これでよかったと思います。

ニコ・ヒュルケンベルグ(ハース)
2023年F1第21戦サンパウロGP ニコ・ヒュルケンベルグ(ハース)


 ただもちろんソフトでもうちには苦しかったです。ですからスティントの最初はゆっくりと入って、徐々にタイム上げていくようにしていきましたが、すぐにまたタイムが落ちてエステバン・オコン(アルピーヌ)に抜かれた後もリカバリーできませんでした。何とか引っぱれるところまで引っぱってピットインして、最終スティントも同じように走りました。最後はニコの方がローガン・サージェント(ウイリアムズ)より速くて差を詰めましたが、最初からサージェントを抜こうとしてもっと速く走っていたらタイヤはダメになっていたはずです。残念ながら今のクルマではこれ以上速くレースを走ることはできませんでした。


 ケビンは2戦続けてクラッシュでレースを終えることになり、パーツの数なども厳しい部分はあります。ただそれが理由ではありませんが、次のラスベガスでは2台のパッケージをわける予定です。というのも、メキシコの時点でアップデート版パッケージの低速コーナーでのパフォーマンスに疑問があり、以前のものの方が感覚はいいかもしれないという意見があったからです。ニコははっきりと以前のパッケージで走りたいと言い、ケビンはこのまま走りたいと意見が別れました。最後の最後までなんとかしてポイント獲得を目指さないといけないので、ラスベガスには2種類のパッケージを持ち込んで、それぞれのドライバーがいい感触を持っている仕様でいくことに決めました。厳しい戦いが続きますが、最後まであきらめずに少しでもいレースをしたいと思います。

小松礼雄エンジニアリングディレクター&ギュンター・シュタイナー代表(ハース)
2023年F1第21戦サンパウロGP 小松礼雄エンジニアリングディレクター&ギュンター・シュタイナー代表(ハース)

ケビン・マグヌッセン&ニコ・ヒュルケンベルグ(ハース)
2023年F1第21戦サンパウロGP ケビン・マグヌッセン&ニコ・ヒュルケンベルグ(ハース)



(Ayao Komatsu)




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