長い冬を乗り越え、ついに訪れた春の日差し
“自らの週末”を冷静に築き上げたボッタスが初優勝
「One more step to go」──もう1段上を目指そう。2014年のイギリスGP、キャリアベストの2位でチェッカーフラッグを受けた直後、バルテリ・ボッタスはこんな無線をチームに送っていた。メルセデス・パワーユニットの力を得て好調だったシーズン、ワークスチームには敵わなくても、いくらかの幸運が働けば、チャンスは指先に触れるところにあると感じていた。
以来、何度も表彰台ゴールを飾りながら、勝利をつかみ取ることは叶わなかった。マシンの性能は伸び悩み、シーズンを重ねるにつれて表彰台に上がる機会も減っていった。
「ちょっと時間がかかっちゃったね。80戦以上も」
ロシアGPで初勝利を実現した時、ボッタスが最初に口にした言葉。でも、待っていた時間は無駄ではなかった。ここまで努力を続けてきて、たくさんのことを学んだ。
「フィンランド人ドライバーが強いのは、凍った路面に慣れているからじゃない」と言ったのは、ミカ・ハッキネン。
「長い冬を過ごしながらも、いつか春の日差しがやって来ることを、僕らが知っているからだよ」
ボッタスは「下り坂の先には必ず上り坂がある」と表現した。「困難な経験が、自分を強くしてくれる」とも。
メルセデスに移籍した今シーズン。フェラーリとの戦いは熾烈で、メルセデスは昨年までのように自在にレースを操ることができなくなっていた。予選ではエクストラパワーを使ってタイムを記録しても、レースではタイヤに悩みを抱えてフェラーリに先行されてしまう。
バーレーンGPでは初めてのポールポジションからスタートしながら、チームによる内圧設定のミスによってペースを維持することができなかった。2セット目のスーパーソフトに履き替えてからも、理想のバランスは得られなかった。チームはルイス・ハミルトンの提案を受け入れてふたりのポジションを交替させ、セバスチャン・ベッテルへの攻撃をハミルトンに委ねた……。