34周目にレースが再開すると、主導権を握ったレッドブルは一気に加速、わずか7周で2番手ボッタスとの間隔を10秒近くまで広げた。インターミディエイトは長保ちしない。でも、ここでセーブせず、ベストラップを記録しながらどんどんペースを上げたことが勝利への道筋をさらに明確にした──。天候に翻弄され、あらゆる可能性に備えて“守る”のではなく、自ら攻めるレースをはっきりと意識し、対応策の幅を広げたのだ。
何が起こるか分からないレース、十分なリードがあればその分だけ選択肢は多くなる。攻め慣れているレッドブルとフェルスタッペンの、判断が冴えた。そして40周目、ヒュルケンベルグのクラッシュによって出動した3度目のセーフティカーが、フェルスタッペンに3セット目のインターミディエイトを履くチャンスを与えた。ヒュルケンベルグの事故は見る者の心を痛めるものであったし、レッドブルとて期待していたわけではない。言えるのは、フェルスタッペンにはインターミディエイトをもう1セット使う意志があり、タイミング良くセーフティカーが出動すればピットインには迷いがなかったということだ。
路面はまだダンプコンディション。40周目から45周目までのセーフティカー走行の間に、マシンとピットの間では多くの情報が行き来していた。天候変化に負けず、毅然と自らのレースを通そうとしたフェルスタッペンの意志は、こんなコメントにも表れていた。
「ドライに交換するドライバーがいたら、彼らから目を離さないで」
雨雲が行き来したホッケンハイムも、40周目以降には徐々に雨足が弱まり、ドライに向かっていくことが予測された。フェルスタッペンに少しでも守りの気持ちがあったなら、ライバルと違って自分とベッテルだけがフレッシュなインターミディエイトを履いているという事実に寄りかかり、リスタートの後も首位を維持しようとしただろう。しかしリスタート直前にはランス・ストロールが、リスタートの瞬間にはダニール・クビアトがソフトに交換した──。トロロッソとレーシングポイントの英断が見事であったことは、最終スティントで彼らが走ったポジションが示している。
フェルスタッペンも、1周を走行しただけでピットに飛び込んだ。首位の座をいったんは手放す作戦。その重要性をしっかり認識したピットクルーは1.88秒という記録的な速さでタイヤ交換を終えた。コースに戻ったフェルスタッペンはすぐにストロールをかわし、その間に他のドライバーたちがドライタイヤを履くためにピットイン──。即座に、首位の座を取り戻した。
ドライコンディションでは、コンマ数秒を争ってピット作戦が繰り広げられる。しかしミックスウェザーでは、判断次第で1周5秒もの違いが出てくる。だから、ライバルの動きを見て判断するのではなく、自らの感覚と意志によって誰よりも早く“正解”を見つけ、行動に移すことが勝負の鍵だったのだ。読み辛い天候で、何度も何度も決断が求められたとしても──。
XPB Images
竹を割ったようなフェルスタッペンの爽快なレース。苦労を重ねたベッテルの挽回と、ドイツのファンの声援。そんなレースをさらに味わい深いものにしたのが、クビアトの表彰台だ。
「ホラー映画にブラックジョークが添えられたようなレースだった。信じられない、ローラーコースターのようなレースだったね。ちょっと僕のキャリアにも似て」