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【中野信治のF1分析/第5戦】3勝分に値するフェルスタッペンのモナコ初優勝。復調フェラーリと低迷メルセデスを推察
2021年5月30日
2021年F1シーズンも序盤を終え、早くもタイトル候補が絞られてきました。ホンダF1の最終年、そして日本のレース界期待の角田裕毅のF1デビューシーズン、メルセデス&ルイス・ハミルトンの連覇を止めるのはどのチームなのか……話題と期待の高い今シーズンのF1を、元F1ドライバーでホンダの若手ドライバー育成を担当する中野信治氏が解説。第5戦はフェラーリの復調ぶりと2年ぶりの開催となったモナコの難しさについてお届けします。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
2021年F1第5戦、2年ぶりにレースが開催されたモンテカルロ市街地コースですが、僕が最初に走ったモナコを走った1997年の印象は今でもよく覚えています。それまでアイルトン・セナが走行している時代をずっとテレビで見ていたので、まさか自分がそのモナコに行き、レースができるなんて夢にも思っていませんでした。
マシンを走らせるという部分では、ピットから出ていった1周目の当時のローズヘアピン(現在はフェアモント・ヘアピン)を回ったときは感慨深かったですね。『ようやく来れたな』という思いになったのを覚えています。当時はシミュレーターもないですし、オンボード映像もほとんど見たことがなかったので、本当にテレビの中だけの世界でした。
僕はF3のマカオGPも走行したことがないので初めての公道サーキットでした。ですので、本当にピットから出て『ついに来たな』ということと、『こんなところを走るの?』という、シンプルにふたつのことを思いましたね(苦笑)。ガードレールや急勾配、ラインを外すと元に戻れないほどの路面のアンジュレーション(起伏)など、すべてが驚きでした。
当時は今よりも路面に溝があって、その溝を使ってクルマを曲げていくテクニックなど、いろいろな技もありました。ですが、あまりにもコースが特殊すぎて、それまで自分なりに勉強してきた経験というのが、正直ほとんど役に立ちませんでした。1年目のモナコGPに関しては、それくらいインパクトが強烈でした(1997年は決勝リタイア、2年目は9位完走)。
今のモナコでも当時からはいろいろと変わったとはいえ、基本のコースレイアウトなどはほぼ同じなので通じるものはやはりあると思います。そのなかで縁石や路面が変わっていたり、プールサイド・シケインの見通しが良くなっていたりしていて、そういった意味では走りやすい方向にいっていると思います。
モナコを速く走るのに、正直『ドライバーの腕が試される』という表現が正しいのかは僕にはわからないですが、こういった市街地サーキットが得意なドライバー、不得意なドライバーというのは絶対にいると思います。周りがガードレールなので、純粋にマシンを速く走らせるテクニックとはまた少し違うテクニックが必要になります。
DAZNの解説でも話しましたが、“小技”という部分で、本当にミリ単位で縁石にちょっとだけ乗せたり、乗せる角度をピタッと合わせないとタイヤがグリップしなかったりします。そんなクルマを曲げる技やトラクションを掛けるテクニックを、路面の複雑なアンジュレーションに合わせて正確に出し続けなければいけないわけです。
ドライバーとしてはそのあたりの感じ方・捉え方というのが、もしかしたら他のサーキットとは若干違うのかもしれません。ですので、このモナコで勝ったドライバーが一番速くてうまいかと言われると、それはちょっと違うのかなと思います。ですが、マシンも含めてモナコを得意とするドライバーはやはり存在するので、それだけ特殊なサーキットですね。
そんなモナコですが、今回の一番のトピックスはやはりフェラーリが速さを取り戻してきたということになるかと思います。これは正直、意外でした。どういう理由でフェラーリが速くなったのかは、詳しくはわからないですし、今シーズンをこれまでのパフォーマンスを見てきたなかで、この市街地サーキットでフェラーリがいきなり速くなるというのはイメージができませんでした。ですが、フェラーリの速さに驚いたと同時に、フェラーリが上位にくることは、F1界にとって大きく意味のあることだと僕は思っているので、うれしい気持ちもありました。伝統のモナコでフェラーリが速い、すごく面白くなる予感がしましたね。
これまでのシーズン最初からのルイス・ハミルトン(メルセデス)対マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)という争いに、フェラーリが入ってきて、しかも今回はシャルル・ルクレールが見事ポールポジションを獲得したということもあり、これは否が応でも盛り上がりますよね。
ただ、なぜモナコではあそこまでフェラーリが速かったのか。明確な理由は今はわかりませんが、高速コーナーが少ないモナコで、足回りを積極的に使っていくコースでは速いのか。ですが、今年のフェラーリのマシンがモナコに合っていたかと言われると、そこまでは合っているようには見えなかったので、本当に不思議です。
考えられるとしたら、アルファロメオのパフォーマンスもよかったことからも、フェラーリ・パワーユニットのドライバビリティが優れていて、トラクションを掛けることが難しいサーキットに合っていた。また、モナコはエンジン回転数がかなり落ちるので、その部分にトルクや馬力がすごく合っていて、実は中低速が非常に良いパワーユニットなのかなということが考えられると思います。
モナコはマシンのダウンフォースをあまり効かせなくても走れてしまうサーキットです。もちろん、ダウンフォースが効いていたほうがいいのですが、高速コーナーがないので、ダウンフォースに頼り切ったセットアップではありません。サスペンションなどの足回りをよく使うサーキットですので、もしかしたら市街地用の柔らかいセットアップにフェラーリのマシンが合っているのかなとも思います。
そして、そんなフェラーリと対象的になってしまったのがメルセデスです。これまでもクルマがすごく決まっていた、というわけではないですが、そこをなんとなく誤魔化し、ハミルトンの技とチームの作戦で勝ちを拾っている部分がありました。もともとメルセデスのクルマは足を使って走れているような印象があったので、モナコでもこれまでと同じように飛び抜けた速さはなくても、結果的にポールポジション争いには絡んでくるだろうなと思っていました。最終的にはバルテリ・ボッタスが予選3番手になりましたが、ハミルトンが7番手になる展開は予想外でした。
●難易度が高まりクラッシュ多発のプールサイドシケインとカマボコ状縁石のアプローチ
メルセデスのクルマの動きを見ていると全然ダウンフォースが効いていない感じがしました。パワーユニットの面でも、低回転時のトルクやドライバビリティが扱いづらいところがあるのか低速サーキットがイマイチなのか、速度域によってマシンが合わないという弱点がもしかしたらあるのかもしれません。レースを見ていてもクルマが路面に張り付いている感じはしませんでした。
ハミルトンが週末を通してここまで目立った速さを見せられなかったことも珍しいですね。もう少し予選をうまくまとめていれば、ハミルトンはサインツと争うようなレース展開になっていたかなとも思います。レースではアルファタウリ・ホンダのピエール・ガスリーに抑えられてしまったということも大きく、モナコは抜けないサーキットなので、前半は作戦としてタイヤをマネジメントしながらハミルトンは走行していました。
その後、ハミルトンは前を走行する車両がピットインしたときにプッシュをして、その前に出るというオーバーカットを狙う作戦だったはずです。ですが、予想外にチームが早めにピットインさせました。あの作戦も奇をてらったというか、他のチームとは真逆のストラテジーを狙ったのだと思いますが、うまくはいきませんでしたね。
アウトラップでのタイヤの温まりもそれほど良くなかったように見えましたし、ハミルトンがピットに入った段階では、他のドライバーたちもタイヤのデグラデーション(性能低下)にはそれほど苦しめられていなかったので、正直、動くには早いのではないかなと思いました。その後には7番手を走行していたセバスチャン・ベッテル(アストンマーティン)にもかわされてしまいました。メルセデスとハミルトンにとっては、特に作戦面で今シーズン初めて『すべてが裏目』に出てしまったレースでした。
そんなこともあり、レース中の無線ではハミルトンの苛立ちがどんどんと募っていくことが手にとるようにわかりましたよね。『なんでこうなるの!?』『なんでこの作戦なの?』とハミルトンはチームに言っていましたが、それ以上のことは言わなかったので、やはり大人だなと思いました。ピットストップで順位が変わらなかった時はブチ切れてもおかしくないタイミングだと僕は思っていましたが、ハミルトンはよく自分の感情をコントロールしましたね。
また、決勝ではこういったコースを得意としているベッテルやランド・ノリス(マクラーレン)が上位に上がってきました。ベッテルは今回非常に光っていましたし、マシンのポテンシャルを考えると、ドライバー・オブ・ザ・デーに値する走りだったと思います。レース中も緩急を使い分けて攻めるところで攻め、抑えるところは抑えるという、久しぶりにベッテルの元世界チャンピオンらしい走りを久しぶりに見たなという印象がありました。本当にチームが思い描いている作戦どおりのレースを展開し、順位も上げることができたので、これをキッカケや足がかりにして、今後また上位争いをしてほしいですね。
あと、今回のモナコではプールサイド・シケイン(15〜16コーナー)でいくつかアクシデントがあったことですね。予選Q3ではルクレールが最後のアタックでクラッシュしてしまい、決勝でも何人かのドライバーがガードレールにタイヤを当てて挙動を乱してしまいました。あのコーナーはレイアウトが変更されて昔よりも通過スピードが上がっています。うまくシケインのイン側の縁石を使いながら抜けるとスピードを乗せていけるのですが、そのためにはひとつめの右の15コーナーのインを、いかにガードレールギリギリまで攻めていけるかということがポイントになります。
ドライバーは15コーナーに入ると同時か、コーナーに進入する瞬間はすでに次の左16コーナーの出口を見ているので、15コーナーはほぼ感覚で進入しています。次の16コーナーでは縁石に乗せたいのですが、縁石を乗せすぎた先には大きなカマボコ状の黄色の縁石が待ち構えています。ですので、ドライバーはそのカマボコ縁石に集中しなければなりません。
カマボコ縁石に乗せすぎるとマシンが跳ねてフロアを壊してしまったり、サスペンションが壊れてガードレールに突っ込んでしまいます。15コーナーの内側のガードレールはタイヤを擦っても大丈夫なのですが、それを2〜3cmでも読み違えるとガードレールの餌食になります。ですので瞬間的な判断はもちろん大事ですし、目線の持っていき方も難しくて、右側のガードレールとすぐの左コーナーのカマボコ状の縁石の両方に神経を払わなくてはいけない特殊なコーナーでもあります。さすがに決勝ではある程度のマージンを取っているはずですが、予選での一発は攻めてタイムを出さないといけないので、そのマージンが取れないことはある程度、仕方がないことだと思います。
角田裕毅選手(アルファタウリ・ホンダ)も初めてのモナコで、フリー走行2回目でクラッシュしてしまいましたが、あのアクシデントがなければ順調に予選Q1は通過できたと思います。フリー走行でマシンを壊してしまい、周回数が稼げなかったことが予選結果に影響していると思いますが、これはモナコを走る新人が“やりがち”なところですよね。ミック・シューマッハーもフリー走行3回目でクルマを壊してしまいましたし、角田選手も焦っていたわけではないと思いますが、これがモナコの難しさと言えます。
レースでは結果的にフェルスタッペンが優勝して、ドライバーズランキングでトップに立ち、レッドブル・ホンダもコンストラクターランキングもトップになりました。前回、前々回のレースを見ていると、モナコでハミルトンが優勝するとフェルスタッペンにとっては流れが非常に厳しくなるなと感じていましたので、今回、『絶対に取り返さなければいけない』モナコでフェルスタッペンが勝てたということは、レッドブル・ホンダにとってかなり大きなことです。
『モナコの勝利は3勝分に値する』と言われますが、フェルスタッペンとレッドブル・ホンダにとってはまさしく3勝分の価値ある1勝だったと思いますし、今シーズンを振り返ったときに、このモナコの優勝がターニングポイントになるかもしれません。フェルスタッペンにとって、モナコでの初めての表彰台が優勝という結果も非常に大きいですし、ホンダにとっても1992年のアイルトン・セナ以来のモナコ優勝ということで、レッドブル・ホンダにとっては素晴らしい結果になりました。
次戦はアゼルバイジャンですが、このサーキットも市街地ですがストレートがかなり長いコースです。モナコとはサーキット特性が違うので、今回と同じ結果にはならないと思います。モナコと同じ市街地コースではありますが、ある意味、答え合わせにもなるのかなと思います。モナコとアゼルバイジャンでコースの特性はまったく違いますが、今シーズンの各チームごとのマシン特性が垣間見れる可能性がありそうです。
<<プロフィール>>
中野信治(なかの しんじ)
1971年生まれ、大阪出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在は鈴鹿サーキットレーシングスクールの副校長として後進の育成に携わり、F1インターネット中継DAZNの解説を担当。
公式HP https://www.c-shinji.com/
SNS https://twitter.com/shinjinakano24
(Shinji Nakano / まとめ:autosport web)
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1位 | マックス・フェルスタッペン | 362 |
2位 | ランド・ノリス | 315 |
3位 | シャルル・ルクレール | 291 |
4位 | オスカー・ピアストリ | 251 |
5位 | カルロス・サインツ | 240 |
6位 | ルイス・ハミルトン | 189 |
7位 | ジョージ・ラッセル | 177 |
8位 | セルジオ・ペレス | 150 |
9位 | フェルナンド・アロンソ | 62 |
10位 | ニコ・ヒュルケンベルグ | 31 |
1位 | マクラーレン・フォーミュラ1チーム | 566 |
2位 | スクーデリア・フェラーリ | 537 |
3位 | オラクル・レッドブル・レーシング | 512 |
4位 | メルセデス-AMG・ペトロナス・フォーミュラ1チーム | 366 |
5位 | アストンマーティン・アラムコ・フォーミュラ1チーム | 86 |
6位 | マネーグラム・ハースF1チーム | 46 |
7位 | ビザ・キャッシュアップRB F1チーム | 36 |
8位 | ウイリアムズ・レーシング | 17 |
9位 | BWTアルピーヌF1チーム | 14 |
10位 | ステークF1チーム・キック・ザウバー | 0 |
第19戦 | アメリカGP | 10/20 |
第20戦 | メキシコシティGP | 10/27 |
第21戦 | サンパウロGP | 11/3 |
第22戦 | ラスベガスGP | 11/23 |
第23戦 | カタールGP | 12/1 |