ホンダがパワーユニットを供給しているレッドブルの活躍を甘口&辛口のふたつの視点からそれぞれ評価する連載コラム。レッドブル・ホンダの走りを批評します。今回はF1第1戦バーレーンGPの週末を甘口の視点でジャッジ。
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開幕戦バーレーンGPは、ホンダにとって「勝利を逃したという悔しい思い」(田辺豊治F1テクニカルディレクター)が残った一戦となった。2位で満足せず、上を目指す気持ちがいまのホンダにはある。2015年にF1に復帰したときには、想像もしていなかった実力がいまのホンダには備わっている。
田辺TDも「ポールポジション獲得に加え、レースでも終始トップ争いを繰り広げるパフォーマ ンスを見せられたことをポジティブに捉えています」と、今回のバーレーンGPで手応えを感じていた。
今回のバーレーンGPでホンダがメルセデスと対等に戦えると感じた要因のひとつに、予選でのパフォーマンス向上がある。昨年ホンダはレッドブルとアルファタウリを合わせ3勝を挙げた。勝利数では2019年と同じだったが、予選でポールポジションを獲得したのは2019年が3回(ハンガリーGP、メキシコGP、ブラジルGP)だったのに対して、2020年は最終戦アブダビGPの1回だけだった。
レースは戦略や展開による運・不運が関係しているため、成績からだけではマシンの性能が見えにくいが、予選はそういったフィルターがほとんどないため、予選でのタイムがマシンの性能を反映していると考えていい。その予選でホンダはメルセデスに約コンマ5秒の差をつけて、バーレーンGPでポールポジションを獲得した。2020年の開幕戦オーストリアGPではメルセデスがレッドブル・ホンダにコンマ5秒の差をつけてポールポジションを獲得していたから、8カ月で立場を逆転されたことになる。
その最大の理由は、今年変更された空力に関するレギュレーションが、レッドブルのマシンに有利に働いたことだろう。今年のF1はダウンフォースを削減させるために、主にフロアとディフューザーに変更を施してきたが、ハイレーキ(静止状態で車体を真横から見たとき、大きく前傾している)型のレッドブルのマシンは、新レギュレーションの影響を受けにくかったと考えられる。
しかし、空力のレギュレーション変更だけでレッドブル・ホンダがメルセデスよりも速くなったわけではない。そこには、ホンダのパワーユニットが大きく貢献していたことも忘れてはならない。
ホンダは、F1ラストイヤーとなる2021年に向けて、新骨格のパワーユニットを投入してきた。これは、なんとしてもパワーを上げ、現在F1で最強と言われるメルセデスに対抗するために、燃焼室の形状も大きく変更しようと、カムシャフトのレイアウトを大幅にコンパクトにして位置を下げ、バルブ挟み角などを変更したものだ。結果、シリンダー上部がコンパクトになり重心も下がった。さらにホンダはボアピッチ(シリンダー間の距離)も縮めて、重心だけでなくサイズ自体をコンパクトにした。
この変更によって、レッドブルの車体開発はより自由度が高まったとヘルムート・マルコ(モータースポーツアドバイザー)は、ホンダの新骨格パワーユニットを歓迎している。
「エンジンのサイズが予定していたものよりもコンパクトになって、開発の自由度がより広がった。われわれにとっては大歓迎の変更だった」
2015年に『サイズ・ゼロ』というコンセプトでF1に復帰したホンダは、2017年に自らのコンセプトを捨て、メルセデス型のコンプレッサーをターボから分離したレイアウトに変更。それから4年後の2021年、独自の新骨格パワーユニットによって、ついにメルセデスを上回るパフォーマンスを披露しようとしている。
(Masahiro Owari)