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【津川哲夫の幻の2020F1メカ私的解説】メルセデスの画期的ステアリング『DAS』開幕仕様を確認も信頼性に不安か

2020年4月25日

 中国発祥の新型コロナウイルス蔓延で、2020年F1GP開幕が延期され、今年中のF1開催自体が危ぶまれている。世界のメジャースポーツすべてが開催を見合わせ、オリンピックさえ2021年へ延期が決まったのだからいたしかたない。


 緊急事態宣言が発せられ、外出の自粛が要請され、誰もが自宅に引きこもり、仕事も遊びもすべてオンラインでテレワークが推奨され、学校は休業・・・そう、こんなときだからこそ状況を逆手にとり、ポジティブ思考で行こうじゃないか。


 忙しないF1のレーススケジュールに追われることがなくなったのだから、こんなときこそ、ゆっくりと新旧のF1テクノロジーを掘り下げてみようと思う。ちょっと深入りするかもしれないが、ご容赦あれ。


 まずは肩透かしを食らった2020年シーズン、本来ならオーストラリア・メルボルンの開幕戦で出そろった新車群がバーレーン、ベトナム、中国と進み、いよいよヨーロッパ戦開幕への大改造が行われる時期なのだが、つぎにF1が再開されたときには当然、アップデートが施されたマシンになるはす。ということは、オーストラリアの搬入日に見た新車たちはすべて幻のマシンになってしまうことになりそうだ。


 まずは、この幻の2020年マシンの技術を掘り下げて、F1旧時代との比較で振り返ってみようと思う。

●幻の2020年マシンの新技術。メルセデスの捨てリングシステム『DAS』

 2020年車におけるテクニカル・イノベーションでもっとも面白かったのは、メルセデスW11の送り出した革新的ステアリングシステムのDAS(デュアル・アクス・ステアリング・システム)だ。これはその呼び名のとおり、ステア作動軸が二重に存在していて、必要に応じてこの作動軸を変えてトーを変化させる機構だ。


 ドライバーがステアリングハンドルを前後に【押す/引く】の動作で2方向の油圧を造り、その油圧を使って(1)トラックロッド(ステアリングロッド)の車体側のピボット位置をわずかに変化させ、幾何学的にトラックロッドの寸法を変化させてフロントタイヤのトーを変化させる。


 現在のF1のフロントアライメントはトーアウトが主流。つまり、タイヤは進行方向に向かって逆ハの字に開いている。しかしコーナリングには良いのだが、ストレートでは常に角度がついているので、転がり抵抗、そして空気抵抗にもつながり、ストレートスピードを下げてしまう。


 ところがストレートでDASを使ってトーアウトをトーイン側に振り、タイヤの向きをまっすぐにすれば抵抗は減り、タイヤの寿命にもつながりメリットが多い・・・と言うのがメルセデスの狙いと言うわけだ。


 この写真はDASを搭載したステアリングシステム。通常型と比較して油圧の(2)ラインバルブと(3)アクチュエーターが追加されているのが解る。

メルセデスの2020年型マシンの新ステアリング機構『DAS』
メルセデスの2020年型マシンの新ステアリング機構『DAS』


通常型のメルセデスのステアリングシステム
通常型のメルセデスのステアリングシステム

 さて、ここからは想像の世界に入ってゆく。この油圧ラインがどう働いているのかを考え、いくつかの可能性を考えてみた。


 ひとつは一般的な考え方で、これがラック&ピニオンタイプのシステムならインナーのラックホルダーをピニオンごと前後に移動させるタイプ。


 インナーケースはアウターケース(写真全域)に完全にホールドされていると考えられ、言わばアウターケースをシリンダーにたとえればインナーケースがピストンのようにスライドするタイプ。必要な動きは僅かで済むことだから可能だが、極めて複雑になるのは当然で、部品精度の問題や点数、重量増加も避けられない。


 ふたつ目は、同じインナーケースでも前後ではなく回転方向に動く、つまりラックそのものを回転させることで、トラックロッドのインナーピボットをラック中心ではなくオフセットして設定しておけば、回転させることで位置を変化させることができ、この位置変化でトーアングルを変えることが可能になる。構造はひとつ目の前後移動型よりは比較的シンプルになるはずだ。


 しかしピニオンと(5)ステアリングシャフトとのつながりポイントの角度変化が伴う場合は、わずかだろうがステアリング操作のフィール変化が生じるかもしれない。ただし、その辺は(6)パワーステアリングの油圧がカバーしてくれそうだ。


 さらにラック軸の回転、あるいは上下への可動をウォームギヤとセクターギヤ等でリンクして、セクター位置を油圧で変更することで行うこともできるかもしれない。ただしこれには単純なラック&ピニオン機構ではなく、ラック軸の回転移動によるラック歯とピニオン歯、そしてセクターギヤの形状や接触部の考察が重要になりそうだ。


 またラックそのものを2重構造にして、左右のピボット自体を油圧などで外側へ押し出したり内側へ引き込んだりすることも可能だが、これはレギュレーション上での禁じ手と言うことになり可能性は低い・・・ただし、F1エンジニアたちは逃げ道を探るのも上手く、常にFIAの一歩先を行っているので、なにか逃げ道を見つけたのかもしれない・・・。


 現在F1のステアリング機構には油圧のパワーステアリングが使われていて多くの禁止事項があるとはいえ、バックラッシュ(意図して設けられた歯車などの隙間)の精密な調整など微妙な制御が可能だ。


 特にメルセデスは長年フロントサスペンションにも油圧制御を多用していて、油圧技術に秀でているので、DAS機構はそれほど難しい技術ではなかったのかもしれない。


 ただし、このシステムはまだ完璧ではないようで、中止はされたが開幕戦のオーストラリアグランプリの木曜日の夜、レースカーの2台とも夜間にDASシステムは外され、金曜日の走行に向けて通常システムに変更されていた。つまり、DASの開幕戦デビューは実際には見送られていたのだ。


 FIAは2021年に施行予定の新規レギュレーションを2022年に先送りして、来季2021年は現行ルールの継続とした。ただしDASシステムは今シーズンのみに許されたもので、レギュレーション継続でも2021年は禁止とすると発表された。


 つまり今シーズン、もしレースが行われないようなことになれば、このDASシステム、まさに幻のテクノロジーと認定されるわけだ。



(Tetsuo Tsugawa)




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