はるか前方で「グラッツィエ・ラガッツィ(Thank you、 guys)」と叫んだセバスチャン・ベッテルは、作戦やチームの計算というより、ドライバーの腕と気概で勝利を守り切った。
バーレーンのコースに関するかぎり、純粋な速さで勝っていたのはフェラーリ。メルセデスがあらゆる知恵を総動員して対抗しても、速いマシンを手にしたベッテルの方が多くの選択肢を手にしていた──。追い詰められた結果の1ストップ(スーパーソフト→ソフト)であっても、それを機能させる余力がベッテルとフェラーリにはあったのだ。
プランDと告げられたのは、何周目だったか覚えていない。
「たぶん、ゴールまで20周くらいのところだったかな。それはもともと1番目、2番目として考えていた作戦ではなく、僕も一瞬“どんなだったかな”って考えるほどだった。でもタワーを見て、4番手がガスリーであることを知って、3位〜4位の間には大きなギャップがあることが分かった。いまピットに入っても3位、残り5周でピットインしても3位。(1ストップにトライしても)僕らに失うものはないのだ、と」
ベッテルのオンボード映像を見れば、無駄なステアリング操作が一切なく、巧みにタイヤを労わりながらペースを維持して走行していることがよく分かる。ソフトで39周を走るのは賭けではあったけれど、少なくともメルセデスにはベッテルのタイヤの状態をベッテル以上に把握することはできない──。ピットからの指示を繰り返しながらも、メルセデスとて“勝つために本当に必要なペース”は分からなかったのだ。
そして事実として言えるのは、ミディアムを履いたメルセデスにタイヤの余裕があったなら、あるいは燃料的に攻撃モードを使い続けることが可能であったなら、彼らはフェラーリの戦略にかかわらず、ずっと早い段階でペースアップを指示できたはずだということ。終盤のバルテリ・ボッタスに見られたように、たとえ追いつけたとしても“乱気流を受けるとタイヤ性能が落ちる”メルセデスでは、フェラーリを消耗させるほど攻撃を続けるのは難しいということ。ストラット4(オーバーテイクモード)も、使用がとても制限されている。
今シーズンはきっと、コース特性とコンディション次第でトップ2の優劣が転換するシーズンになる。計算と指令でレースを管理するメルセデスと、ドライバーのスポーツに託す“ラテン主義”に余地を残したフェラーリ。それぞれのやり方で、ドライバーとの相乗効果を高めることが必須となる──。戦いのレベルが一気に上昇する気配が楽しみなシーズンだ。
RedBull
(Masako Imamiya)