ホンダがパワーユニットを供給しているレッドブル、トロロッソの活躍を甘口&辛口のふたつの視点からそれぞれ評価する連載コラム。レースごとに、週末のレッドブル、トロロッソのコース内外の活躍を批評します。F1第15戦シンガポールGP、第16戦ロシアGPを甘口の視点でジャッジ。
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ロシアGPでホンダはパワーユニット(PU)を供給している4台全車に最新のスペック4の新ICE(エンジン)を投入した。その理由をホンダの田辺豊治F1テクニカルディレクターは「ロシアGP以降の後半戦で、戦闘力の確実な確保を狙って、パワーユニットのアロケーション(配分)を考慮して、チームと協議して決めた」と説明した。
この「戦闘力の確実な確保」には、3つの意味が含まれている。ひとつは、性能面での確保だ。ホンダは第13戦ベルギーGPでアレクサンダー・アルボンとダニール・クビアトの2台に、そして第14戦イタリアGPでマックス・フェルスタッペンとピエール・ガスリーにスペック4を投入した。
第15戦シンガポールGPでどのスペックを使用したのか、ホンダは明言していないが、もしシンガポールGPではスペック3かスペック2で戦っていたとしても、第14戦イタリアGPから使用していたスペック4は最終戦までの7戦を1基で走り切らなければならない。もし、スペック4にアクシデント(ドライバーのエラーによるクラッシュ)やトラブルが発生して、交換しなければならなくなったとき、プールにあるのはスペック3かスペック2となる。最新スペックでないパワーユニットで終盤を戦うのは、できれば避けたかった。
次に耐久性だ。最終戦までの7戦を1基で走り切らなければならないというのは、リスキーな選択である。しかも、ベルギーGPからすぺック4をレースでも使用していたクビアトに関していえば、8戦を1基で走り切らなければならない計算となる。つまり、どこかで1回交換しなければならない。残りのレースを考えた時、鈴鹿、メキシコでグリッドペナルティを受けるのは得策でない。ならば、比較的オーバーテイクしやすいロシアGPでペナルティを消化しておいたほうが、いつでも不測の事態に対応できるというわけだ。
最後がキャリブレーション(調整)対策だ。最終戦までの7戦を1基で走り切る選択をした場合、ロシアGPを含めて、残り6レースを金曜日は旧スペックで走り、土日を最新スペックを走らせることで耐久面でのリスクを少しでも軽減させることができる。ただし、その場合は週末に異なるスペックのICEを使用することになり、パワーユニットのセッティングやエネマネ(エネルギーマネージメント)などのキャリブレーション(調整)をを最適に行えるかどうかという不安が残る。田辺TDも「残りのレースは同じスペックで戦ったほうがいいと判断した」と語っていることを考えると、ロシアGPで2基目のスペック4を投入したのは、現状を考えると良い判断だったのではないか。
こうした判断が、ロシアGPで早くも功を奏した。フリー走行3回目にクビアトのパワーユニットにトラブルが発生。クビアトはすでにペナルティによる最後尾スタートが確定していたので、もう1セット新しいスペック4を投入することができた。トラブルが起きたことは、決して肯定すべきことではない。しかし、モータースポーツは何が起こるかわからない。こうした状況を想定していたことが、傷口を最小限に抑える結果となった。
ロシアGPではレッドブル・ホンダは優勝を争うことはできず、トロロッソ・ホンダは2台ともポイントには届かなかった。しかし、レッドブル・ホンダは9番手からスタートしたフェルスタッペンが4位に入り、ピットレーンからスタートしたアルボンは5位入賞を果たした。トロロッソ・ホンダも19番手からスタートしたクビアトは12位まで浮上し、16番手スタートのガスリーも14位完走。全員がスタートポジションより前でフィニッシュした。
グリッドペナルティはロシアGPで消化した。日本GPは予選ポジションからスタートできる。第6戦モナコGP以来の4台そろっての入賞も不可能ではない。
(Masahiro Owari)