今宮雅子氏によるヨーロッパGPの焦点。いくつもの罠を秘めたバクーの新しい市街地サーキットで、懸念された重大な事故はなく、決勝はクリーンなレースとなった。丁寧に完璧な週末を遂行したウイナーと、最適解に到達できなかったチャンピオン。そして、いちばんの喝采を浴びたのは予選前にクラッシュしてハンデを負いながら、メルセデスやフェラーリを相手に得意パターンを、やってのけたペレスとフォース・インディアだ。
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速すぎて、映像上は存在感が薄かったニコ・ロズベルグだけれど、彼が実現した完璧な予選とレースを過小評価してはならない。たしかに「なぜ、こんなレイアウトに?」と思うほど、圧倒的にメルセデスに有利なサーキットである。ストレート速度を伸ばしてもダウンフォースとタイヤを守れるマシンであることも然り。それでも、バクーのようなコースで一度もマシンを壊すことなく、予選のアタックを完璧にまとめるのは簡単なことではない。ルイス・ハミルトンだけでなく、予選2位のセルジオ・ペレスも3位のダニエル・リカルドも、一度はコースの“罠”に捕らわれた。
レースでは2位発進のダニエル・リカルドがリヤタイヤのオーバーヒートに悩んだ結果、ロズベルグは5周で7秒以上のリードを築いてしまった。レッドブルが早々にピットインしたあと、2番手に浮上したセバスチャン・ベッテルも、10周終了時点でロズベルグに対して12秒遅れ。20周で、その差は20秒以上に広がった。21周目のピットインのあとは、最終ラップまでほとんど映らないほど、ロズベルグは強かった。
フリー走行ではハミルトンの速さに注目が集まったが、モントリオールと同じようにトライ&エラーでブレーキングを探るやり方では、リズムはつかめても最適なセットアップに到達することができなかったのだろう──バクーでは、トライできるポイントが少ない。カナダのターン1や最終シケインのように、制動できなければブレーキを緩めてコーナーをカットするという逃げ方もできないため、フラットスポットを作ってしまう。それに、両側をウォールに挟まれた狭いコースでは、ハミルトン特有の、フロントに大きな荷重をかけて少しオーバーステア気味にターンインしていく走法が制約を受けてしまう。FP1、ターン3でタッチしたウォールはコーナー出口ではなく、入口のアウト側だった。予選Q3のクラッシュも、道幅の狭い区間でターン11のエイペックスに向かって“曲がりすぎた”結果だった。ハミルトンが得意とするモントリオールには、入口でウォールが迫っているコーナーはない……。
リスクの高い初コースでは、丁寧に走って優れたデータを収集していくことが大切なのだと、ロズベルグは心得ていたはずだ。その結果、路面や気温の変化にも適切に対応し、予選で手に入れたマシンとの一体感をゴールまで維持し続けた。レース中にはハミルトンと同様にパワーユニットが間違ったモードに入るという問題を抱えたが「ニコの場合は半ラップで正しいモードに戻すことに成功した」とメルセデスは説明する。自らペースを選んで自由に走れていたニコは、ソフトタイヤに交換してそのウォームアップを確認してから、2位以下との間隔やセーフティカーが入らないレース展開を見て、燃費重視のモードに切り替えたのだろう。だから、加速が必要な区間でエネルギー回収が始まってしまうモードのミスセッティングにもすぐ気づき、最短距離で正しいモードに戻すことができた。