アロンソは尊大な人間ではない。ただ最高峰の勝負を求めて、ここにいる Sutton


【】連載「FACES」第3回:フェルナンド・アロンソ

8月18日

 よく知っているようで、つかみきれないF1ドライバーの素顔。今回はフェルナンド・アロンソにフォーカスする。「当代最強」「マタドール」と言った紋切り型のキャッチフレーズだけでは表現できない、忍耐強く、気取らず、静謐な佇まい。強すぎるイメージゆえに、誤解されやすいチャンピオンの“顔”を今宮雅子氏が描き出す。

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 自らのキャリアにおいて「いまが最も厳しい時期だとは感じない」とフェルナンド・アロンソが言ったのは、たしか、2008年から2009年のこと。

「カートで走っていた頃のほうが、ずっと厳しかった。毎レース、ここで結果を残せなければ、きっと『サッカーに戻りなさい』って言われると思って、不安を抱えていた。いまの僕は全力を尽くして戦うかぎり、F1で走り続けることができると思うから」

 マクラーレンでの1年を経て、帰り着いた古巣ルノーには2005年と2006年にタイトルを獲得したときのような勢いは、もうなかった。それでも手にしたマシンから最大限の性能を引き出すべく、真摯に仕事を続けるアロンソの姿は印象的だった。グランプリの週末を迎えるたび、自分たちがこなすべき課題や他チームとの位置関係を説明する口調はいつも冷静で、戦闘力不足に対する不満めいた言葉を口にすることは一度もなかった。同時に、通常のコンディションでは望めない勝利でも、かすかなチャンスがあれば必ずその匂いを嗅ぎ取って、野性の動物のように静かに獲物を狙っていた。