【】連載「FACES」第3回:フェルナンド・アロンソ

8月18日

「スタート直後の1コーナーで、ちょっとした接触があってポジションを上げられるといいね。その後はずっと1位のポジションに留まりたい」

 こう言って笑ったのは、2008年の富士。予選を4位で終えた直後のことだった。冷たい路面でスタートしたレースでは、アロンソの期待どおりに上位のマシンが1コーナーをオーバーラン。序盤から荒れる展開を冷静に読み取っていたアロンソとロバート・クビカが首位を争い、アロンソが勝利した。ルイス・ハミルトンとフェリペ・マッサの“恵まれた”タイトル争いをよそに、非力なルノーやBMWを駆るアロンソとクビカが強者ぶりを発揮したレースだった。

 日没の早い富士。暗闇に包まれたパドックでプレス対応に忙しいアロンソのもとに何度か足を運んだクビカは、親友の武勲を伝えるために辛抱強く待っていたスペインの記者たちの邪魔をしてはいけないと気を遣い、チーム関係者に「一段落したら電話をくれるように伝えておいて」と小声で伝えて、先にサーキットを後にした。カート時代以来のふたりの関係、ふたりが共有する人間性を控え目に、明確に表すシーンだった。

 F1で何が嫌いかと訊ねたとき、クビカは「自分をひけらかすためにパドックにいる人間」と言った。アロンソにクビカとの友情を訊ねると「同じ価値観で話したり考えたりすることができる友達だから」と答えた。ちなみに、アロンソがF1でいちばん嫌なのは「移動」──でも、パスポートコントロールで興味津々の係官が彼のスタンプを事細かに眺めても、同行のスタッフがスーツケースの中身を念入りに調べられても、待っているアロンソが苛立つ様子は見たことがない。静かに佇んでいてもオーラは隠しようがないけれど……遠くからでも知り合いに気づき、先に「やあ」と手を上げるのは、必ずアロンソのほうだ。驕りも、有名人気取りも、一切ない。