【】【F1イタリアGPの焦点】ティフォシの興奮とメルセデスの攻撃の狭間で、未知の自分と対峙していたルクレール

9月10日

 20周以上にわたって至近距離からフェラーリを攻め続けたハミルトンのミディアムは、予想よりも早く力尽きた──。ハミルトン自身、日曜日の朝にはハードの可能性をチームにたずねたと言う。しかしチームの返答は「No」だった。ハードは一度も試していない。それに、ミディアムよりずっと遅いから。

 42周目の第1シケインで止まりきれなかったハミルトンは、8周フレッシュなミディアムを履いたバルテリ・ボッタスにバトンタッチして攻撃を委ねることになる。しかしストレート速度の高いフェラーリを、ボッタスも攻略することはできなかった。

「最後の2ラップは、グランドスタンドでみんなが立ち上がってジャンプしている様子に視線を取られてしまった。“観客席を見てるんじゃない。路面を見て、ドライバーの仕事に集中するんだ”って、僕は自分に言い聞かせていた。でも、あんなにスタンドが動いているのを目にすると、ドライビングに集中するのは本当に難しかった」

 フェラーリのドライバーとしてモンツァで首位を走り、自らのエモーションと戦いながらドライビングに集中するのはどれほど難しいことか──。最高潮に達したティフォシの興奮とメルセデスの攻撃の狭間で、ルクレールは未知の世界に身を置いた未知の自分と対峙しなければならなかったに違いない。ゴールの瞬間の叫び声は、文字通り“解放”を意味していた。

XPB Images

「Mamma Mia、 Mamma Mia」

 英語で言う「Oh my God!」を繰り返した後、チームへの感謝と永遠の敬意を伝えながら、すべてのファンに手を振り、喜びを分かち合い……愛しむように走ったウィニングランのラップタイムは5分。パルクフェルメに戻り、歓喜のボーイズたちに身を委ねた後、イタリア語でインタビューに応えたのはイタリアGPを締め括るグッドジョブだった。モンツァで、ティフォシのために話すのに、誰が英語のコメントなど望んだだろう?

「ものすごく難しいレースだったけど、チームとティフォシのためベストを尽くそうと僕は必死で頑張った。ここで勝てるなんて、本当に夢のようだよ。1週間前には初優勝を飾ったけれど、ここで勝てた感動は1週間前の10倍も大きい。みんな、本当にありがとう」

 小さな頃から夢見た世界は、夢をはるかに超えていた。フェラーリへの情熱だけで、こんなにもたくさんの心がひとつになる。イタリア国歌の大合唱は、モンツァの空に響き渡るとまるで“フェラーリの聖歌”のよう──。青空から、赤い衣を纏ったレースの神様が降りてきた。

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(Masako Imamiya)